イルカカ   奥さまは写輪眼






団地妻カカシさん プロポーズ編










「カカシさん、俺の奥さんになってください!」

お付き合いを初めて数ヶ月、イルカ先生のお宅にお邪魔して夕飯をご馳走になり、食後のお茶を飲んでいたら、突然イルカ先生がそう叫んで、土下座をした。
ま、まさか、これってプロポーズなの?

俺たちは見合いをし、一応、結婚を前提にお付き合いを始めたけれど、イルカ先生は手を握って来ることもなければ、キスもしてくれなかったのに。
でも俺たちは、とっても気があって、楽しくデートを重ねていた。
だから俺は、無理して男同士で結婚なんかしなくても、ずっとこのまんまでもいいかなぁなんて思っていた所だった。

それに結婚するって、つまりそう言うことでしょ?
俺は上でも下でも後ろからでも前からでも、どっちでもいいんだけれど、イルカ先生はそう言うことに物凄く拘っていそうだったし……
何より、俺みたいな男を本気で奥さんにするなんてことになったら、誰だってちょっと考えてしまうんじゃないかと思う。

俺が写輪眼持ちで、暗部上がりで、年上で……なんてことは、承知でイルカ先生も付き合ってくれていたわけだけど……
つまり、そう言う話じゃなくて……
とどのつまり、それは、俺が上でも下でも構わないって話なわけで……
あっちの経験値の話なわけで……
イルカ先生が俺みたいな男を抱いて楽しいかって話なわけで……

イルカ先生と俺は、何もかも違うようで、最高に気が合うような気がするって俺は思うわけだけど、モラルって言うの?
暗部上がりの俺とお固いアカデミーの先生ではモラルが違うんじゃないかと思うわけで……

ともかく、俺は、イルカ先生に幻滅されるのが怖くって、身体の関係にならないことに半ば安堵してたからこそ、お付き合いを続けて来られたわけで……
でも、イルカ先生に求められたかったと言うのも本音なわけで……

ああ、様々な思いが胸を去来する。


俺の目の前でイルカ先生の結わいた髪が揺れている。
イルカ先生の耳まで赤くなっている。
今日一日、イルカ先生はなんだか変だった。
俺にプロポーズしてくれるつもりで、ずっと緊張していたんだ。
「俺の奥さんになってください!」と言う、この一言を言うために、落ち着きがなかったんだ。
あんなに真っ赤になって……
俺のためにあんなに頭を下げて……
胸が熱くなる。

あの髪に触れたらどんな感触がするんだろう。
あの髪に触ってみたい……
そんな風に思ったら、俺の口からは勝手に言葉が飛び出していた。


「イルカ先生は俺を本当に嫁に貰ってくださると言っているんですか?」
「俺はそのつもりでお付き合いをさせて頂いて来ました」
イルカ先生が顔を上げて、真剣な眼差しで俺を見詰めて来た。
「本当に本当に俺を嫁に?」
俺はしつこく聞き返したけれど、イルカ先生が嘘や冗談でこんなこと口にする人じゃないことくらいはわかっている。

「やはり、俺の嫁になるのは嫌ですか……」
「ち、違います。イルカ先生は本当に俺みたいな男を嫁にして後悔しませんか。イルカ先生の方が、もしかして、嫁に相応しいのではと……」
そうなんだよね。
俺はどっちでも良かったんだし。
でも、イルカ先生の奥さんになって愛される人は、どんなに幸せだろうって、そう夢見ずにもいられなかった。
真面目で実直で、真っ直ぐで……
そう、今みたいな真っ直ぐな熱い瞳でずっと見詰められていたら、どんなに幸せだろうって。


「俺はカカシさんより年下で中忍で、一介の教師ですし、カカシさんには不釣り合いな男だと承知していますが、あなたを妻に迎えたいんです」
「俺なんか……年上の……大男だし、傷物ですし、経歴が経歴ですし……俺なんか嫁にして……あの、その……」
「そんなことはなんの障害にもなりません。カカシさんの全てを愛しています」
イルカ先生が本気で俺のことを思ってくれているのはわかる。
わかるけど、俺の全てって……
結婚したとしても、イルカ先生に言えないような過去がいっぱいある男なのに……
それでも、本当に全てを愛してくれるのだろうか?
真面目なイルカ先生の真剣さは伝わって来る。
イルカ先生は本気で俺にプロポーズしてくれているんだよね。
俺の全てを愛してくれるって言ってくれているのは、きっと嘘じゃない。
イルカ先生なら俺の心ごと愛してくれるよね。
まるごと、身も心も?

そう、身も心もだよ。
イルカ先生は男の俺に、本当に欲望を抱いてくれるのだろうか。
その気になってくれたとしても、純情でお固そうなイルカ先生と俺の身体の相性は合うだろうか。
離婚の第一原因の性格の不一致と言うのは、実は性の不一致のことらしいんだよね。
結婚してから、無理でしたじゃ困るでしょ。
だから、俺は勇気を出してイルカ先生に聞いてみたわけ。

「イ、イルカ先生は……俺に……俺なんかに……あの、その……よ、欲情するんですか……」
「俺が欲しいのはあなたです」
イルカ先生はきっぱりと言ってくれた。
「イルカ先生、俺を……本当に俺を嫁に貰ってくださるのなら……俺を……今……抱いてください」
「い、いいんですか」
イルカ先生は少し驚いたみたいに目を瞠って念を押すように聞いて来た。
「はい」
俺もイルカ先生の目を見てはっきりと頷いたけれど、あまりに真っ直ぐなイルカ先生の視線が恥ずかしくって、すぐに目を伏せてしまった。
だって、誰もこんな瞳で俺を見ない。
欲望だけではない、本当に真剣な眼差しだったから……


見詰め合っていたと思ったら、イルカ先生は急に立ち上がり、押入れを開けて物凄い勢いで、バサッバサッと布団を敷き始めた。
そして、蛍光灯の紐を引っ張って電気を消し、俺を布団に押し倒してきた。
物凄い早業だった。
俺たち忍びはかなり夜目も効くから灯りの有無はあまり関係なかったりするけれど、イルカ先生のごく普通の心遣いがなんだか嬉しくって擽ったかった。
イルカ先生の布団はお日さまの匂いがした。

「カカシさん」
俺に覆いかぶさりイルカ先生が上から俺の顔を見詰める。
俺は答えるようにそっと目を閉じた。
「……っ…………」
イルカ先生の唇が俺の唇に触れた瞬間、まるで身体の中に電流が流れたような痺れを感じた。
「んっ……んっ………」
イルカ先生の情熱が流れ込んで来るようなキスだった。
ああ、イルカ先生はこんな情熱を秘めていたんだ。
キスだけでくらくらしてしまった俺は、なんだか怖くなってしまって、すがるようにイルカ先生にしがみついていった。





とりあえずend





イルカ先生のプロポーズはこんな感じでした。


2011/08/08





レンタルサーバー inserted by FC2 system