カカシさん、テンゾウに片想い!








君よ知るや





15.










15.


「ボクは本気ですよ?」
テンゾウは俺の表情と感情をことごとく読み取る。
そして俺の疑いを否定した。
穏やかな口調ながら、テンゾウの目は熱く真剣だった。

まさか……
まさか……
俺は耳を疑う。
自分の頭を疑う。
都合のよい幻聴ではないのか。
この俺が幻術に掛けられてしまったのだろうか。

わかっているのか?
俺はお前を騙したんだぞ……?
俺はお前には幻術は掛けていないけれど、未だイネコの幻を見ているんじゃないのか?
それともイネコに対して、どんな姿であろうと構わないなどと言った手前、引くに引けなくなったのか?
律儀過ぎるぞ。


「イ、イネコとの約束なら守る必要はない。あれは全て演技だ。お前をからかっただけだ」
俺はテンゾウを悪い夢から覚ましてやろうと、突っぱねるような物言いをした。
だが、テンゾウは笑った。
「最初からカカシ先輩に告白されたら、かなり戸惑ったかもしれませんね。カカシ先輩の作戦勝ちですね」
テンゾウはそう言って目を細めた。
「いつだってあなたの作戦に狂いはない」
いやむしろ狂っているのはお前じゃないの?
俺はイネコじゃないのに、どうして混同出来るのか。
それとも、本当に俺を許してくれると言うのだろうか。

「俺はお前を騙していたんだぞ」
テンゾウは、ゆっくりと首を振った。
「ストーカーも真っ青の猛烈なアプローチでしたよね。こんな熱烈な告白されたのも愛され方をしたのも初めてですよ」
目元が笑っている。
だからって、男から好かれても告白されても嬉しくはないだろう?

「おま……俺は……男だぞ」
俺は呆然としながら呟いた。
そんな言葉しか出て来なかった。
「そ、それに、お、俺は……お、お前より、と、年上で……大男で……暗部出身で……」
そんな男のどこがいいものか。

「暗部出身はボクも同じですよ?それに、宇宙人や幽霊に比べたら年の差や身長や性別なんて些細なことでしょう?」
そんなことかまいません、とまた笑う。
その笑みを見ているだけで俺は何か幻術にでもかけられてしまったように頭がくらくらしてきてしまう。
それはイネコに見せていたのと同じ笑みだから。
俺には向けられる事の無い笑みだと思っていたから。



「で、でも……俺は、お前の理想からも掛け離れ過ぎているし……」
「ボクの理想?」
「性別は別にしても、お前の好きになるタイプとは180度違うだろ」
テンゾウは不思議そうに首を傾げた。
テンゾウは、俺の姿にまだイネコの幻影を重ねて見ているんじゃないのか?
罪悪感から俺が珍しくしおらしくしているから。

「だってお前は目立たない地味な女が好きだろう……」
「そうですか?」
テンゾウはやや意外そうに瞬いた。
「お、俺はっ……老若男女が土下座してお願いして来るレベルの男なんだよ。お前の理想とは掛け離れ過ぎてるでしょ」
俺は自分のことは良くわかっている。
自惚れでも何でもなく、それは事実だ。
どこをどうとってもテンゾウよりも優れているでしょ。
テンゾウはふっと笑った。
困ったようなそれでいて優しい瞳だった。

「先輩は勘違いをしていますよ。ボクのことを知り尽くしているようでそうじゃない」
俺がお前のことを勘違いしているって?
誰よりもお前のことを見続けて来た俺が?
「ボクの好みについて誤解しています。ボクは大人しくって控えめな女性がタイプと言うわけじゃありませんよ。ボクは好きになった相手がタイプなんです」
そんなことを言っていたのも先刻承知だ。
だけど、お前が今まで好きになった女は、みんな大人しい地味な女ばかりだった。
どの女も似通っていたのは事実だ。
だから、そんな好みを集大成したようなイネコに食い付いたんだろう?


「女でも男でも、きっと老人でも宇宙人でも……好きになった相手がタイプなんです」
テンゾウはそう繰り返した。
「今、ボクが好きなのはカカシさん、あなたですから。あなたがボクの好みそのものなんです。ボクはカカシさんが好きなんです」
「ばっ」
俺の顔は赤く染まってしまったかもしれない。
真顔で、な、なんて台詞を吐くの!
俺はイネコのような人間じゃないのに?
本当に俺自身のことを?

「カカシ先輩はボクには勿体ないような人だって言うことはわかっています。強く美しく誰もが憧れる里の至宝だと言うこともわかっています」
よ、よくわかっているじゃないの。
「でもボクには出来ない。本当に好きになった人を、そんな理由で諦めることなんて出来ません」
俺は耳まで熱を持つのがわかった。

確かに今までテンゾウが付き合った歴代の彼女たちは、俺が少し揺さぶりを掛けると、みんなそんな台詞を吐いて諦めて去って行った。
そんなのは本当の恋じゃない。
そんなことで諦められる女にテンゾウは本当に勿体ないと俺は思い続けてきた。
今、それが?
テンゾウが俺のことを?
俺は混乱しパニックに陥りそうな自分を叱咤し、なんとか平常心を保ち続けてようとしているのに……



「土下座してお願いしなければ駄目でしょうか?」
それなのにお前が、真面目な顔してそんなことを言うから……
俺はどんな顔をしたらいいんだ?

猫の目のようにまん丸い瞳が、食い入るように俺を見詰めている。
俺だけを見詰めている。
恥ずかしくて、まともに見返してなんかいられない。
俺の視線は情けなくも宙を泳いでしまう。

「ばっ……ばっかじゃないの……」
お前、テンゾウ。
本当に馬鹿じゃないの。
許しを請わなければならないのは俺なのに……
お前ってどこまでお人好しなの。
どこまでいい男なの。

「ど、土下座なんかしなくっても……」
俺は視線を反らして囁くように呟いた。
それがやっとだった。
「カカシさんとお付き合いさせてください」
テンゾウの手が俺に向かって差し出される。



俺はその手を見詰めた。
男の手だ。
木遁を操る忍びの手だ。

俺は本当にその手を取ってもいいのだろうか……
そう自分に反問しながらも、俺は下げていた腕を無意識の内にのろのろと上げていた。
おずおずと俺の手はテンゾウの手に向かってしまう。
途中まで伸びた所で、俺の躊躇いを払拭するように、素早くテンゾウの手が俺の手を掴んだ。
変化した女の手ではない、ごつごつとした男の俺の手をテンゾウが握る。
心臓がバクバクと五月蠅いほど脈打ち始めた。


「お、お前は特別だから……」
土下座なんかしなくてもかまわない。
テンゾウの両手が俺の右手を包み込む。
ぎゅっと力を入れて握り込まれた。
テンゾウの熱が伝わって来る

「ボクは先輩の特別なんですね?」
「そ、そうだよ。だって俺はお前のことを……」
「ボクのことを?」
テンゾウは掴んだ俺の手を引っ張り、俺の身体を引き寄せた。
「あっ……」
俺の身体はテンゾウの腕に巻き込まれ、厚い男の胸に抱き込まれた。
テンゾウは、自分よりも僅かに背の高い、そして硬い男の身体を抱きしめて何を思うのだろうか。
小さなイネコの身体のようにテンゾウの胸にすっぽりとは収まり切らない男の身体を……
本当に俺なんかでいいのか?


「こうして抱きしめて、あなたの全てがボクのタイプだと言うことがわかりましたよ、カカシさん」
俺の心の中を読んだように、テンゾウが耳元で囁いた。
心臓が震えた。


俺だって、ずっと……
ずっと……
誰よりもお前を見ていた。
誰よりもお前に恋していた。


「ずっと……お前が……」


目の前にあるテンゾウの顔が俺の顔に近付いて来る。
開きっ放しだった右目の中一杯にテンゾウの顔が広がり溢れる。
テンゾウの唇が俺の唇にそっと重なる。

俺の告白は、重なりあったテンゾウの唇の中に吸いまれて行った。




ずっとお前が好きだった。







end







あとがき
実はこのお話は、コメディーのつもりで書き始めたので、
ラスト辺りで少しりシリアスぶりましたが、全般を通して喜劇として笑って頂ければ幸いです!
テンゾウってば、やけにすんなりカカシ=イネコだと受け入れたなヲイ!とか、
ノーマルだったのに、いきなり男も頂けちゃうのかよ!とか、深く考えたら負けなのです。
多分、テンゾウは、呆れるを通り越して、
あの偉大で尊敬すべき先輩が、こんな馬鹿げたアプローチをするほど自分の事が好きだったのか!
って言う驚きと感動の方が大きくて、頭がパーンとなっちゃったのかも(笑)

管理人の好きなテンカカのパターンの一つなんですけど、
高飛車な性格なのに、恋をして可愛くなっちゃう!カカシ先輩とか、
先輩が可愛くなるのに比例して、後輩が漢らしくなるのがツボなんですよねー。
包容力のある後輩に萌えーーー!!とう言うわけで、
「でもボクには出来ない。本当に好きになった人を、そんな理由で諦めることなんて出来ません」
と言う台詞。この台詞をテンゾウに言わせてみたかったお話でした。




2013/07/21〜2013/09/07(加筆修正)
(初出:2012/03/30、04/03、2013/01/16、01/18、01/18、01/21、01/22、01/25、01/25、01/31)




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