Merry Christmas to You














「カカシ先生!」
「はっ、はいっ!」
イルカ先生のお家で夕御飯を頂いて、のんびりと寛いでいたら、いきなり俺の二の腕を両腕で掴まれた。
いつになく真面目な顔をして真剣な口調で名前を呼ぶものだから、心臓は跳ねあがり思わず引っ繰り返った声が出た。
「な、なんでしょうか……」
呼びかけた癖に、イルカ先生はなんだか言い辛そうにしている。
俺、また何かしたかな……
そ、それとも……とうとう呆れられてしまったかな……
ついに、別れを切りだされちゃうのかな……
イルカ先生の余りにも真剣そうな様子に、よからぬ想像ばかりが頭に浮かんで来て、ドキドキして来てしまった。

「ああ、そんな顔をしないでください。驚かすつもりはなかったんです。あの、その……」
不安が顔に出て、俺はきっと酷く不細工な表情になってしまったんだろう。
イルカ先生が苦笑いを浮かべて凄く困ってる。
いつも歯に衣着せぬ物言いをするイルカ先生が、そんなに言い難いことなんて……
やっぱり、そう言うことなのかな……
一年中、イルカ先生を困らせて、困惑させている俺だけど……
そうだよね、ここは俺が、何でもないふりをして、切りださせてあげなくっちゃ。
そ、それがせめてもの優しさだよね……
俺はイルカ先生と別れて生きていけるかわからないけれど、これ以上、イルカ先生に負担を掛けちゃいけないよね。
せめて……
せめて……イルカ先生の前では、なんでもないふりをしないと。


「イルカ先生、大丈夫ですよ。なんでもハッキリ言ってください。俺、覚悟はできていますから……」
「覚悟?いえ、そんな大層な物をねだろうって思っているわけじゃないですから、安心してください」
えっ?ねだるって?
イルカ先生が?
物欲なんてあまりないイルカ先生が?
俺が奢るって言っても、いつも頑なに固辞するか、遠慮しまくるイルカ先生が?

あっ!
もしかして、慰謝料?
慰謝料を請求したいのかな……
ああ、それもありかもしれないね。
俺ってば、きっとイルカ先生に慰謝料を払うくらいのことはしているもの。
慰謝料のひとつもふんだくらないと、やってられないよね……

わかったよ、イルカ先生。
俺、全財産だって払うし、これからの稼ぎだって、全部イルカ先生に払ったって構わないよ。
勿論、里で加入させられている遺族年金だって、イルカ先生のところへ支払われるようになっている。
それもそのままにしておくから、俺が死んだら受け取ってね。


「イ、イルカ先生、幾らですか…?俺、今、ちょっと、財産、どのくらいあるか把握はしてないんですが……」
「ざ、財産???」
「全財産、投げ出したっていいほど、イルカ先生には感謝しています!」
お金なんかでイルカ先生への愛と感謝を表せるなんて、俺だって思っていないけれど、仕方ないよね。
俺に出来ることと言ったら、そのくらいしかないし。
ああ、俺、良かったよ。
今ほど、コピー忍者のはたけカカシで良かったと思ったことはないよ。
今までたいして使い道はなかったけれど、稼ぎが良くって本当に良かった。
こんなことじゃないと、イルカ先生の恩には報いられないものね。

「そんな大袈裟ですよ、カカシ先生。骨董品やお宝を買うわけじゃなし」
イルカ先生、俺と別れて何か欲しいものがあるのかな。
骨董品じゃないって……じゃあ新しいものってことだよね。
新しい……新しい恋人とか……
そっか、新しい恋人って女なんだ。
きっと結婚するんだね。
じゃあ、骨董品って言うのは俺のこと?
そりゃ、おかしいや。
言い得て妙とはこのことだよ。
自分でそう考えて、なんだか笑えて来ちゃうよ。
もう泣きたいんだか、おかしいんだか、わかんないや。


「イルカ先生、おめでとうございます。よ、良かったですね、あ、新しい……」
彼女が出来て……と続けられなくて俺は俯いてしまった。
「…で、出来たら俺もお祝いしたいけれど、ちょっと無理みたい……」
「おめでとう、ってカカシ先生、あれはおめでとうって言うんですか?まあ、お祝いには違いないらしいですけどね、一緒にお祝いしましょうね。あ、それとも、やはり都合、悪かったですか?」
イルカ先生って、デリカシー無さ過ぎ!!
そんなところも、俺は愛しちゃっているけれど、あんまりです……
イルカ先生の結婚式になんて、俺、出席できるわけないよ。

「で、俺はね、カカシ先生、その……夫婦茶碗って言うんですか……いや、違うかな。同じものがいいですかね。色違いの方がわかりやすくっていいかなって思っているんですけどね。えっと、ですからね、俺は茶碗を用意しますから……カカシ先生は、そ、そ、揃いの湯飲みでもと……思いまして……」
そっか、そんな所まで話は進んでいたんだ。
もう一緒に暮らす話になっていたんだね。
で、俺に揃いの湯飲みをプレゼントしろってわけだ……
ひ、酷いよ、イルカ先生。
俺なんて、こんなにイルカ先生の家に入り浸っているのに、ずっと客用の湯飲みにご飯茶碗だったじゃない。


「ど、どうしたんですか!?カ、カカシ先生!ど、どこがお怪我でも?具合でも悪いんですか?やっぱり、こんなおねだりでは、まずかったですか。カカシ先生?」
あれ、おかしいな。
イルカ先生がぼやけて見えるよ。
ぽたり、ぽたり、と雫が膝に落ちて、はじめて俺は自分が涙を零しているんだって気がついた。
「だ、大丈夫です。それに、わ、わかりましたから。俺が湯飲みはプレゼントさせて頂きますから……ご、ごめんなさい。け、結婚式には…出席できそうもありません……」
「はぁっ?誰の結婚式に出席するんですか?」
心配そうに俺の顔を覗き込んでいたイルカ先生が、素っ頓狂な声を上げる。
「だから、出席は出来ませんって。勘弁してください。お、俺、もう帰りますから……」
「あんた、また、何を誤解しているんですか?」
立ち上がろうとする俺を阻止するために、イルカ先生は全身でタックルして来た。
俺はイルカ先生に押し潰されて、じたばたともがく。

「イ、イルカ先生が言ったんでしょ!結婚するから、俺と別れたいんでしょ!慰謝料代わりに、俺が夫婦茶碗でも夫婦湯飲みでも、ペアのパジャマでもYES.NO枕でも、なんでもプレゼントさせて貰いますよ!!だ、だから、結婚式に出ろなんて酷いこと、い、言わないでください……む、無理だよ……そんなの……だ…って……だって……俺は……」
俺は興奮して大声で怒鳴ったけれど、段々と悲しくなって涙がボロボロと零れ続けて最後は掠れるような声になってしまった。
俺に馬乗りになったイルカ先生は、ぽかんとしている。
大口を開けて、唖然を通り越した顔をして、固まっちゃっているよ。
どうしちゃったの?


「あんたは、なんて馬鹿なんです!!もう、本当に、なんて、なんて……そんなに馬鹿なんです!!」
暫くしてようやく我に返ったのか、イルカ先生は頭から湯気を出して怒鳴り始めた。
俺の身体を引き摺り起して、肩を掴んでガクガクと揺さぶる。
「あんたみたいに馬鹿な人、見たことありませんよ!!どこをどうしたら、そんな話になるんです!!!あ、あ、あんたと言う人がいるのに、俺が誰と結婚するんです!!あんたは、まだそんなこと思っていたんですか!!」
「だ、だって、俺が聞いても欲しいものなんてないって言うイルカ先生が…俺におねだりなんて言うから……」
「そ、それは、なんでもない時に、そんなに物を頂くわけにはいかないからですよ!あ、あんたはただでさえ常識がないんだから!!」
「い、いきなり、プレゼントをねだられるなんて、思うわけないでしょ!」
「ク、クリスマスだからですよ!」
俺達はまるで喧嘩腰みたいに怒鳴り合ったけれど、くりすます?
クリスマスだから、って言った?
クリスマスって、あの最近流行り出した、異教徒のお祭りだよね。
割とミーハーな木ノ葉の人たちは、宗教に関係なく楽しんでいるみたいな、プレゼント交換が目的みたいなお祭りだっけ?
「あんた、黙っていればとんでもないものをプレゼントに寄こすし。こっちが欲しいものを指定しなけりゃ、ぐるぐると悩みまくるし。だ、だから、先にお願いしようと思ったんですよ!」

「えっ?それで、湯飲み…?夫婦茶碗……?お、俺とイルカ先生の……?」
「そうですよ、他に誰がいるんですかっ!!」
「だって……今まで、そんなこと……ずっと、お客様用のだったじゃない……」
「だからですよっ!家には、揃いの茶碗も湯飲みもありませんからね!だ、たから、いい機会だと思って、カカシ先生と、そ、そ、揃いのっ……」
イルカ先生は、血管が切れちゃうんじゃないかってくらいに真っ赤になって、どもっている。
もしかして、イルカ先生、照れている?


「イルカ先生、ごめんなさい、ごめんなさい!!!俺、湯飲みでも茶碗でも買いますから!!何百個でも何千個でも買いますから!!!」
また俺は馬鹿な誤解をしてしまったみたい。
慌ててイルカ先生に抱きついて、ごめんなさいを言いまくる。
「何百個もいらないんですよ!二人しかいないんですから!!」
「ペアの湯飲みを買います!イルカ先生と俺のと二つだけ買ってきます!!」
「当たり前ですよ!お、俺にはあんたしかいないでしょう!!」
「はっ、はい、はい!イルカ先生!!ごめんなさい、ごめんなさい。馬鹿なこと考えてごめんなさい!また呆れないでくださーい!!!」
「本当に、あんたみたいな馬鹿な人、みたことないですよ……。ごめんなさいはいりません。それに「はい」は一回でいいです」
「はっ、はい!!」

「カカシ先生。湯飲みや茶碗が揃ったら、ここで一緒に暮らしませんか?」
「……っ!!!」
「はい」の返事はイルカ先生の唇に奪われてしまった………








後日談
「そう言えば、カカシ先生、ペアパジャマはともかく、YES.NO枕ってなんですか?」
「YES.NO枕なんて俺はいりませんよ。いつだって返事はYESです」







I wish you a Merry Christmas!









end








2008/12/19

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