クアドラプル スクランブル


ver.ナルト














カカシ先生はダメな大人だってばよ。


昔から、あやしい雰囲気の大人だった。
覆面忍者だし、見た目からして怪しい。
しかも一年中、手にはエロ本。
猫背でイチャパラを読みながら歩いている姿なんか、子供じゃなくたって避けて通るだろ。
しかも時間にもルーズなダメな大人だった。
あの遅刻癖にはサクラちゃんと何度も泣かされたってばよ。
教え子を待たせるなんて忍者としても上忍師としてもなってないってばよ。
それでもあの遅刻魔のお陰でサクラちゃんと俺は忍耐と言うものを学ばされたか?

すんげー強いエリート忍者だって言うのに、普段のカカシ先生はちっともそんな風には見えなかった。
あやしい覆面、エロ本、頼りなげな猫背、のほほんとした笑い顔。
俺達との出会いからして、黒板消しトラップなんて言うベタな悪戯に引っ掛かるくらいだから、普段は本当に気が抜けていて、常識に疎くって、まともに生きているのが不思議なくらい日常生活では危なっかしい人だった。
だけど一緒に任務をこなして行くうちに、カカシ先生のことが色々わかって来た。
忍びとしての経験は言うに及ばず、先生から俺は沢山のことを教えて貰った。
形のあるものから形のないものまで、色んなことを教えて貰った。
それでちょっとばかりは見直したつーか、尊敬したつーか、先生に惚れ直したつーか、そんな風に思っていたのに……

俺が上忍になって、カカシ先生の評価は、怪しいの他にいろいろと加わった。
女たらし、スケコマシはまだましな方で、男の先生が時にはアバズレだの尻軽だの呼ばれているのには目眩がした。
俺は先生がそう言う意味でもてるって言うことに、本当にびっくりした。
確かに先生は綺麗な顔をしていたってばよ。
初めて顔を見た時、想像をはるかに超えた先生の素顔に俺は呆けてしまって、たっぷり1分以上は馬鹿みたいに口を開けて見惚れてしまった。
でも口布をしてしまえば、いつもののほほんとした先生で、先生はいつまでも俺の先生なんだって、ずっと信じてた。


それなのに次から次へカカシ先生のとんでもない噂は俺の耳に届いた。
酒を飲んで酔っ払ってはへらへらして誰にでもいい顔見せたりしてんの。
誰にお持ち帰りされただの、誰をお持ち帰りしただの、何人と何をしたのあれをしたのって、あっちからもこっちからも五月蠅いほど、カカシ先生の噂は飛んでくる。
先生はまだまだ第一線で活躍中のエリート忍者なのに、なんでそんな暇があるんだって不思議なくらいだった。
そんな暇があるんなら、たまには俺の修業を見て欲しいってばよ。
修行じゃなくたって、一楽にラーメン食いに行くってばよ。
それに俺ももう酒も飲める年なのに、可愛い元生徒と酒の一杯も酌み交わしたいって思わないのかよ!


やっと先生を捕まえて、俺が飯に誘っても酒に誘っても、先生ってばなんか冷たくねー?
忙しいから、またねって、俺よりそんな暗部の後輩だかなんだかわかんない野郎たちが大事なのかよ!
俺が追いかければ追いかけるほど逃げて行くみてー。
俺になんかカカシ先生はつかまんねーの?
カカシ先生は俺の先生じゃなかったの?
俺はずっとカカシ先生は俺だけの先生だって思っていたのに、カカシ先生の方は、もうそんな風に思っていないのかも。

そんなことを考えてしまって俺は愕然とした。
そしてすっげーイライラして、むしゃくしゃして、おかしくなりそうだった。
先生が俺の知らない男と寝ていたり、知らない女を抱いていたりするんだって考えただけで、気が変になりそうだった。
それどころか、俺以外の誰かに笑いかけたり話しかけたりしているんだって思っただけで、心臓がきゅうっと締め付けられるように痛くなって、張り裂けちまいそうになって、俺は何か悪い病気で、もう死んじまうんじゃないかと思った。

もう死んじまうなら、死ぬ前に、もう一度カカシ先生に会いてぇ。
俺だけの先生だった頃のカカシ先生に会いてぇ……
先生の顔見てから死にてぇ……


俺だけの先生ではなくなってしまったとしても、一目カカシ先生に会いたいと俺は必死で先生を探してやっと捕まえた。
「カカシ、先生!」
俺の勢いにカカシ先生はびっくりしたみたいに、いつもは眠そうな目を見開いた。
「どうしたの、ナルト。そんなに慌てて…何、何かあったのかい?」
俺の顔を見て心配そうに眉根を寄せて顔を覗き込んで来る。
と言っても、今では俺の方がカカシ先生よりでかいから、ほんの少し先生は上目遣いになる。
先生ってば睫毛なげーよな。
目を見開くとバサリって睫毛の音が聞こえてきそうだ。
「先生、俺、もう死ぬんだ……」
カカシ先生は今度は声もなく驚いて、目をまん丸くした。
「な、何を言ってるの。どうしたの、ナルト、ちゃんと話してごらん。怪我はしていないようだね。病気だったら綱手様に……ちょ、ちょっとナルト、どうしたんだい。何があったの?落ち着いて先生に話してごらん」
昔みたいに俺のことを心配してくれるカカシ先生を見たら、俺はなんだか胸がいっぱいになって、またもや胸が締め付けられるほど苦しくなって、知らないうちに目から水がぼたぼたと零れ始めていた。

「せ、先生が、俺のことを、き、嫌いになっちまったから、お、俺は、もう死ぬんだってばよ……」
「何、バカなこと言っているの。そんなわけないだろう。ね、ちゃんと話してごらん。どこが痛いの?痛いんじゃなくて苦しいの?いつからなんだい?病院には行ったの?」
「病院になんか行ったって治んないってばよ。カカシ先生が俺のこと忘れちまったから、俺はここが苦しくなって…死んじまうんだってばよ!」
「ナルト、俺はお前のこと忘れてなんかないだろう?ここにこうしているじゃないか」
カカシ先生ってば、もう何が何だかわからないって言う顔で、へにょりと眉を寄せて困りきっている。
俺のこと心配してくれているってばよ。
今だけは、その綺麗な瞳に俺だけを見詰めて、俺だけのことを考えて、俺のために慌てふためいてる。


そして、俺はわかっちまった。
俺はカカシ先生が好きなんだ。
それも色んな意味でだ。
全ての意味でカカシ先生が好きなんだ。
カカシ先生を独り占めしたい。
カカシ先生の全部を俺のものにしたい、って言う好きだ。

カカシ先生は?
勿論、俺のこと好きに決まってる。
それも俺にはわかっちまった。
何故わかったかって?
そんなの先生を見りゃ、一発だってばよ。

それから俺の猛アタックが始まったけれど、カカシ先生は最初はのらりくらりとかわして、その後、俺が本気だってことがようやくわかったのか、力の限り逃げまくった。
逃げて逃げて逃げまくって、ダメな大人だって証明をし続けるみたいに逃げまくった。
でも逃げて行く先生を見れば見るほど、先生も俺の事が好きなんだって確信して行った。
駄目だってばよ、先生。
忍者のくせにばればれだってばよ。


なあ、先生、俺がいやなの?嫌いなの?
そうじゃないなら、なんでそんなに逃げるの?
俺が男だから?
俺が教え子だったから?
俺が14も年下だから?

先生ってば、なんでそんななんだよ。
なんで先生ってば、自分をもっと大事にしないんだよ。
俺からただ逃げるなら構わなかった。
逃げるなら追いかけて捕まえるだけだ。
でも先生、例え、先生が自分自身でも先生のこと傷つけるのは許せないってばよ。
俺には先生が俺から逃げながら、自分で傷ついているみたいにしか見えなかった。


「なぁ、カカシ先生、なんで最近、あんたそんな荒れてんの?」
「俺は昔っから、こーだぁよ」
「ウソばっか。昔は昔で凄かったらしいけど、最近だろ、こんなになっちまったの」
「そりゃあ俺だって、一応、手のかかる教え子がいる内は節制してたんです。でも、お前だってサクラだってもう一人前だろ。羽を伸ばしたってばちは当たらないでしょ」
「ちっとも羽を伸ばしているみたいには見えないってばよ」
「生意気言ってんじゃなーいの」


「カカシ先生、前に言ってくれただろ。これからはもう先生でも教え子でもない。対等な忍びだって。だったらさ、対等な忍びとして、一人前の男として見てよ」
「見てるだろう。お前はもう一人前なんだから、一人でもやっていけるよ」
「そうじゃないってばよ!先生、はぐらかさないでくれよ。俺は先生の事が!」
先生は俺に最後まで言わせずにいつも逃げてしまう。

「幾ら俺が節操なしでも、14も年下の元教え子の男なんて、だめだーよ」って。
駄目ってなんだよ、無理ってなんだよ。
あんた年下だって、教え子だって、男相手だってかまわないじゃん。
それがトリプルでそろっていたって今更だろ。

俺は先生を大事にしたいんだよ。
それなのに、クモの巣にかかって逃げようともがいて自分の羽を傷つける蝶々みたいな先生を見ているのはたまらなかった。
もう我慢できないってばよ!
俺の腕の中に捉えたら、絶対に誰にも傷つけやしない。
先生にだって自分を傷つけさせやしない。
俺が一生一生大事にするってばよ。


「いやいやいや、だめー」と言いながら、カカシ先生ってば、俺が抱きしめてキスしただけで腰砕けになっちまうくせに。
ちょこっと胸を触っただけでびんびんにおったてて、ちょっと揉んやっただけであっという間に溢れさせて、好きだ、愛してるって囁いただけでもうメロメロで、先生が欲ししいって言っただけでとろとろになっちまうの。
どこが嫌だっつーの、このエロい身体の。


「いやだって言ったのに……」
って、どろどろになっちまったシーツの上で身体をくの字に曲げたままカカシ先生はぐずぐずと泣いている。
はいはい、いやだって言ったよな。
でも俺は謝らないってばよ。
いやだって言いながら俺の背中に思い切りしがみ付いて来て、爪跡いっぱい残してくれたよな。
俺の名前呼びながら、何度も昇りつめてくれたよな。

だから謝らないってばよ。
カカシ先生が好きだから。
誰よりも大事にする。
カカシ先生にも絶対後悔なんかさせない。
余所見なんかさせないってばよ。







end








あとがき
クアドラプルとはトリプルの次、四重と言う意味です。
カカシ先生がナルトを避ける言い訳に、表面上「年上、同性、元教え子」の三つくらいを使いそうですが、
先生は、もっと深くて重い枷をいつまでも心の中に抱え込んでいそうだと思いまして、
トリプル以上の意味を込めて、クアドラプル(四重)スクランブルと言うタイトルにしてみました。


2008/10/02


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