四月馬鹿














今日は嘘をついてもいい日だってばよ。


俺は毎年毎年、ダチに騙されてばかりいるから、今年は絶対に騙されないと誓った。
毎年毎年、騙し返してやろうと企むが、俺の嘘は成功した試しがない。
シカマルになんかはすぐにバレル。
バレルどころか、顔を見るなり、
「よぉ、ナルト、今日は四月馬鹿だな」と牽制される始末だってばよ。
ダチは駄目だ。
騙しても騙されても、もうたいして面白くもないってばよ。
やっぱり、ここはカカシ先生だ!
先生を騙してこそ、一人前の男だってばよ!!

カカシ先生は、ちょっとやそっとのことじゃ騙されないし、騙されたフリも上手い。
それに、もし騙されたとしても、本当に騙されているんだかも、どうもわかりにくい。
そのカカシ先生を騙すには……
俺は数日前から、作戦を考え始めた。
ちゃちな小さな嘘より、荒唐無稽な嘘ほど、騙されやすいらしい。
なんて、これはサイの受け売りだ。
あのサイの言うことだから疑わしい話だけど、もし俺が絶対に言わなさそうなことを言ったら、カカシ先生はどうするだろう。



で、当日……
俺が誰かに騙されたかどうかは置いといてだ。
俺は、じっくりとカカシ先生に嘘を吐くチャンスを窺っていた。
この嘘は、その後の展開もお楽しみだ。
だから、ゆっくり出来る時間を狙って……
一日、機会を窺い、カカシ先生の顔を見ては、俺はそわそわしちまったってばよ。
そして夜になった。
俺が風呂からあがると、カカシ先生はベッドに腰を下ろして、いつものようにイチャパラを読んでいた。
よし、今だ!
ここが一番のチャンスだってばよ!


「カ、カカシ先生!」
俺はいきなりカカシ先生の前に土下座した。
「カカシ先生、俺、浮気しちまったってばよ。ほ、ほんの出来心だってばよ。本当に好きなのはカカシ先生だけだってばよ。許してください!」
床に頭を擦りつけてカカシ先生の出方を窺った。
へへ、どのパターンで来るかな。
俺はカカシ先生の行動を幾つか想定していたってばよ。

端から四月馬鹿だとわかりながら、乗って来るパターン。
そん時は、冷めた顔して「ふーん、じゃあ、別れようか」って来るか、
「じゃあ、ぶん殴られても文句は言えないね」って、ニッコリ微笑んで拳が飛んでくるか。
「お前の嘘は、つまんないよ」って、うんざりしながらも、いつもみたいに目を三日月形にして笑いだすか。

それから、もう一つのパターンは、頭のいい人だから、裏の裏を読んで来るかもしれないってばよ。
裏の裏の裏……そのまた裏まで読む先生だから……
もしかしてこれは四月馬鹿の名を借りた真実じゃないかと、疑い出すパターンだ。
俺に限って、絶対に浮気なんかしねーって先生は思っていてくれると、俺は信じているってばよ。
だけど、もし、先生が疑いの余地を持っていたとしたら……これは、ちょっと笑えないってばよ。
でも、ぜってーにそんなことはないって、信じているから吐ける嘘だ。


四月馬鹿だと承知で「じゃあ、別れてあげる」なんて言われたら、
「へへ、カカシ先生、信じちゃったってば?エイプリルフールだってばよ。俺が浮気なんかするわけねーってばよ。カカシ先生一筋なのに!こんな嘘信じちゃうカカシ先生にはお仕置きが必要だってばよーーー」
ゲヘゲヘってパターンに雪崩れ込むってばよ!!

チチチチチとカカシ先生の右手から青白い炎と一緒に危ない音が響き始めて来ちゃったら、やっぱり俺はその腕を掴んで、抱きよせて、可愛いおでこにチュなんてしちゃって、
「カカシ先生、それってジェラシー?そんなに俺のこと愛しているんだってば!俺も、カカシ先生だけだってばよー!」
って、雪崩れ込むパターンと……

「そんなつまんない嘘吐いてないで、さっさと寝なさい」なんて言われたら、
やっぱりそれはそれで、俺ってば誘われてる?愛されてる?
カカシ先生にダイブするっきゃねーってばよ!!!


なんて、内心、ワクワクドキドキしながら先生の返事を待っていたけれど、一向に先生の反応は返って来なかった。
「先生?」
恐る恐る顔を上げると、先生ってば、イチャパラを閉じて、布団をめくって布団に入るところだった。
ちょ、ちょっと、完全に無視かよ!
「せ、先生!俺が浮気しても、なんとも思わなねーのかよ!」
布団に潜り込もうとする先生の肩を慌てて掴んで寝ちまうのを阻止する。
先生は仕方なさそうに横になるのを諦めて、ベッドヘッドに寄り掛かって座った。

「ナルト…他に好きな人が出来たんなら、別れてもいいよ」
先生は俯きながら、静かに話し始めた。
え?まさか、ホントに信じた?信じちまったってば?
「そろそろ潮時だよね。ん、別れよう。きっと可愛い女の子なんだろうね。その方がいいよ……」
先生ってば、俺の顔を避けるようにそっぽを向いて俯いているから顔は見えねーけど、お腹の所で手を組んですげえ辛そうな声を出す。
いや待てよ。
今度はカカシ先生が、俺に嘘をつく番か?
俺の方が、からかわれている?
今回は俺が絶対に、だまーす!
絶対に絶対に、カカシ先生のお芝居になんか騙されないってばよ!


「……だけど、俺、一人でも育てるつもりだから……産ませてね……」
「産む?産む?産むって……ま、まま、ま、まさかっ……カカシ先生!!!」
一瞬、先生の言った言葉が理解できなかったけど、派手にどもって繰り返す内に、とんでもない言葉が頭の中に浸透してきたってばよ。
「カ、カカッせんせっ!!赤ちゃん出来たってば!?」
俺はベッドに飛び乗って、思わずカカシ先生の薄いまっ平らな腹の上に手を置いた。
「あっ…あんまり強く押したら……」
「ご、ごめんっ」
しまった、どうしよう、お腹の子潰しちまったらどうしようってばよ!
カカシ先生の赤ちゃんを。
カカシ先生と俺の赤ちゃんを!!!
俺の子どもだってばよーーーーー???
たいへんだーーーーー!!!!!!

「せ、先生、大事にしてくれってばよ。元気な赤ちゃん産んでくれってばよ」
「もう、お前には関係ないでしょ。俺は一人で育てるつもりだし」
「関係ないわけないだろ!お、俺の子なんだろ?お、俺、大事にするってばよ、カカシ先生も、生まれて来る子も!」
俺の子ども、俺とカカシ先生の愛の結晶が、カカシ先生のこの腹の中に!!!!
そんなことがあるんだろうか!!!
俺は夢を見ているみたいだってばよ。
まるで天国に行っちまったみたいだってばよ!!!!!

「お前の子だかどうだかなんて、わかんないよ?」
それなのに、カカシ先生の言葉が、俺を天国から地獄に突き落とす。
えーーーーーーーーーーーーっ!?
先生それってどう言う意味だってばよ!!!
ま、まさか、カカシ先生が浮気?
「先生、浮気してたのかーーーーーーーー?!」
「五月蠅いよ、ナルト」
「だ、だ、だ、だって!!!!!」
カカシ先生はさも五月蠅そうに顔を顰める。

「俺が浮気していたとしても、これでお相子だろ。お前だってしてたんでしょ」
「ち、違うってばよ!あ、あれは、エイプリールフールの嘘だってばよ!!浮気なんかするわけないってばよ。そ、そんなことより、先生の方こそ、誰なんだよ!相手は、誰だってばよ!本当に、腹の子は、お、俺の子じゃっ…うぷっ」
いきなり、枕元に置いてあった目覚まし時計を顔に押し付けられた。
顔から外して文字盤を見ると、時刻は夜中の12時を少し回っていた。


「はい、四月一日はもうおしまい。ほら、寝るよ」
ポカンとした俺から目覚まし時計を取り上げる。
え?え?え?なんだってばよ?四月一日はもう終わりって?
「カ、カカシ先生、う、浮気は!浮気ってなんだってばよ!!浮気なんかしてないよな?」
「浮気なんかするわけないだろ」
「あ、赤ちゃんは?お、俺とカカシ先生の赤ちゃっ…痛てっ…」
ゴツンと鈍い音をさせて、目覚まし時計で、頭を思い切り殴られた。

「いつまでも馬鹿なこと言ってんな。男に子どもが出来るわけないだろ」
「でも、先生、一人でも育てるってっ」
「馬鹿。エイプリルフールだったんだろ」
「でぇーーーーっ!!!ひ、ひでぇ、俺、ほ、本気で嬉しかったのに!」
「馬鹿!お前がつまんない嘘をつくからだろ。嘘でもあんな」
「あんな?」
先生はやや大きめの声でそこまで言うと、はっとしたように口を閉ざして、布団を被ってしまった。

「先生?」
布団に潜り込んでしまったカカシ先生を後ろから抱きしめて、顔を覗きこもうとするけれど、先生は顔を見せてくれない。
だけど、先生の耳や項が赤く染まっているってばよ。
「先生?赤ちゃん出来るかどうか試していいってば?」
「子どもが欲しければ、女の所に行け」
「そんなこと言ってねーってばよ。俺は、カカシ先生がいれば本当に何にもいらないってばよ」
後ろからカカシ先生を抱きしめて、薄い腹の上に手を忍ばせる。

「俺はカカシ先生が好きなんだってばよ」
「馬鹿」
「もう四月馬鹿は終わったってばよ」
「お前は、ずっと馬鹿だよ。一年中馬鹿だよ」
先生に、バカだって言われる度に、俺はなんでだか幸せになるってばよ。
「うん、俺はきっと一生馬鹿だってばよ」
俺は、一生、カカシ先生馬鹿だ。
幸せな幸せな馬鹿だってばよ。
俺は目の前の赤いままの綺麗な項にチュと吸いついて、ぴくりと小さく揺れた先生の身体を強く抱きしめた。







end








2009/04/01

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