クリスマス・イブ














とうとう雨が降り始めた。

俺はベッドの中でただ一人、降りしきる雨音を聞いている。

眠気はなかなか訪れない。




ナルトは今頃、どうしているだろうか。
もう木ノ葉の森の中に辿りついただろうか。
この雨だ。
どこかで雨宿りでもして少しでも身体を休めて帰ってくればいいと思う。
12月の雨は冷たい。
このまま降りしきれば夜明け頃には雪に変わるだろう。
そんな冷たい雨に打たれながらも、木から木へと疾走しているのだろうか。
幾ら若くてナルトが体力バカでも、雨は体温を奪う。
動きが鈍くなるのは否めないだろう。

今回の任務も無理はしなかっただろうか。
背も体重も、そして忍としての技量も、何もかも既に俺を追い越しているだろうことはわかっている。
それでも、「ただいまだってばよ」と言ういつも通りの元気な声を聞くまでは、どうにも落ち着かない。
俺を見つけて、顔いっぱいに笑って、まるで犬のように飛びついて来れば来たで、邪険に突き放してしまうばかりなのだが。



ナルトと暮らし始めた家の中。
ナルトが引越しの初日に強引に持ち込んだ馬鹿でかいベッドの中、俺は何度目かわからない寝返りを打つ。
「こんなに大きなベッドはいらないだろう!」と言えば、
「先生、だいたーん!そんなに俺とくっついて寝たいってば?」と返され、俺は返す言葉が見つからなかった。
だったらベッドを二つ入れれば良かったのか、それとも寝室を離すべきだったのか。
いろいろ考えだすとドツボに嵌ってしまいそうだったが、ナルトと一緒に暮らすと言うことは、つまりそう言うことだった。
最近、とみに男臭くなって来た顔つきで、にやにやと笑うナルトの頭をひとつひっぱたいたのは、紛れもなく照れかくしだった。
最初はベッドの大きさに見合わないシングルの掛け布団で寝ていたが、仕方なく大きな羽根布団に買い替えたのは俺自身だった。



クリスマスイブの日に、ナルトは日をまたぐ任務が入ってしまった。
「折角、一緒に暮らし始めて初めてのクリスマスだって言うのに、ついてないってばよ!」
「仕方ないだろう、忍者は任務優先だよ」
「わかっているってばよ。先生ごめんな。一緒にお祝出来なくて」
拗ねていつまでも愚痴を吐きまくるだろうと思っていたら、ナルトの口から飛び出て来た言葉に俺は驚かされた。
奴はいつだって俺を驚かせ続ける。
俺の想像以上に、育っているんだと思い知る。

そして、大人っぽくなったとかと思えば、時折り子どもの頃と全く変わらない笑みを向け、たわいもない我が儘を言う。
「な、先生、プレゼントちょうだい」
「何が欲しいんだ?俺に買えるようなものなら買っといてやるから」
プレゼントのひとつやふたつ、幾らでもやるから、無理はするな。
無理して急いで戻って来るな。
「先生、イブの夜は、俺のことだけを考えていてくれってばよ。ベッドの中で裸で、俺のことだけを思っていてくれってばよ」
そんなのプレゼントにならないだろう。
本当にいつだってナルトの考えることは俺の想像を遥かに超えている。




雨音が変わった。
霙になったのかもしれない。
仕方なく俺が買ったキングサイズのふかふかの羽根布団は暖かくて、素っ裸でくるまっていても寒さを感じないはずなのに、部屋の中も一段と冷え込んで来たような気がする。
このベッドは、幾らなんでも、やっぱり大き過ぎた。
一人では広過ぎる。
一人では寒過ぎる。
このベッドはでかい図体のナルトに丁度いいサイズなんだよ。
こんな日は、うっとおしいくらい熱い体温まで熱いナルトが、湯たんぽ代わりに丁度いいんだよ。


ナルトはそろそろ眠気に襲われていないだろうか。
奴は疲れがたまると一瞬で眠りに落ちてしまうんだから、危なっかしくて仕方がない。

手はかじかんでいないだろうか。

枝を掴み損ねたりしていないだろうか。

何かに気を取られて、足を滑らせていないだろうか。

早く帰りたいと気が急いて、ドジを踏んでいないだろうか。

杞憂に過ぎないとはわかっていても、次々と不安が浮かんでは消える……

あんなおねだりをされなくても、俺はお前が帰って来るまで……



何度も何度も寝返りを打つのも飽き、俺は眠りに就くことを諦めた。
本でも読もうと、身体を捻り枕元の灯りのスイッチに手を伸ばした。

「だめだってばよ、先生。今夜は俺のことだけ考えていてくれるんだろう?」
手を掴まれ、一瞬で冷たい身体の下に巻き込まれた。
「メリークリスマスだってばよ、カカシ先生」
「冷たいよ、ナルトっ」
冷たい腕が俺の裸の肩を抱く。
いつの間に、帰って来た?
全く俺に気取られずに部屋の中に戻って来るなんて。
お前、影分身じゃないよね?

「先生、ちゃんとプレゼントを用意して待っていてくれたってば?」
冷たい指先が俺の裸の背中を撫でる。
ほんの少し疲れをにじませた声だったけれど、それでも酷く嬉しそうに声が弾んでいるのがわかる。
「先生からプレゼント貰いに、先生の元へちゃんと帰って来たってばよ」
暗闇に慣れた瞳には、間近なナルトの表情も良く読み取れた。
「ただいま、カカシ先生。夜明けまでにはまだ時間があるってばよ。先生、俺のことだけを考えて……」
幸せいっぱいに笑って、ただいまと言う声を聞けば、ようやく俺は安心して眠れるんだよ、ナルト。
お前の身体はいつだって雪をも溶かすほど熱いだろう。
冬にはお前の体温が丁度いい。
先ずは濡れた忍服を脱がせようと、俺はナルトの服に手を掛けた。


お帰り、ナルト


メリークリスマス







end






あとがき
BGMは、山下さんのアレで(笑)
お下品バージョンも考えたんですが、ロマンチックなRomanceなのでお綺麗に!

メリークリスマス!!!!


2010/12/24


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