ナルトのお誕生日小話









ナルトとラーメンと俺














俺の誕生日が終わるとあっという間に十月だ。
十月に入ると、今年も残り僅かな気がして来るから不思議なものだ。
だが、十月と言えば、ナルトの誕生日があった。
毎年、毎年、「カカシ先生、カカシ先生、十月だってばよ!十月と言えば何の日があるか知っているってば?」と五月蠅くまとわりついて来るので、否が応でも覚えてしまった。

いや、覚えたと言うのは嘘だ。
否が応でも忘れられない日だった。
十月が巡る度に、胸には幾許かの痛みが去来したが、ナルトがあまりにも嬉しそうに「誕生日を祝ってくれ、祝ってくれと」尻尾を振るものだから、いつしか十月イコールナルトが騒がしい月と、変換されて行った気がする。


「そう言えば、もうすぐお前の誕生日だね。何か欲しいものはあるか」
最近、忙しかったため、数日遅れでカレンダーをめくりながらナルトに尋ねた。
「別に欲しいものはないってばよ。カカシ先生には沢山のものを貰っているからな。別に物はいいってばよ」
明日の任務の準備をしていたナルトは、忍具を詰め込む手を休めて、顔を上げニシシと笑った。
その笑みが眩しくって俺は目眩がしそうになる。

「おや、殊勝なことを言うようになったね。だけど子供は遠慮しなさんな。なんでも言ってみな」
なんでこの見慣れた顔が眩しいのか、自分でもわかっている。
そして、わかっているのに自分と相手に対して誤魔化すように、俺は柄にもなく気前のいい言葉を吐いた。

「子供じゃないってばよ!それは先生がよーく知ってんだろ。あんなことやこんなことや……」
「ばか」
「いてっ、殴ることないじゃないかってばよ」
「お前が相変わらず馬鹿だからだよ」
それに対するナルトの答えが、あまりに馬鹿なものだから、ついつい奴が手にしていた巻物を奪って、その巻物で頭を叩いていた。
全く、馬鹿だ。
本当に、こいつは馬鹿だ。
乱暴に巻かれていた巻物を解いて、俺は巻き直してやる。


「じゃあさじゃあさ、して欲しいことでもいいってば?」
「却下!」
「なんでだよ!聞く前からなんで却下なんだってばよ」
「聞かなくたってお前の考えていそうな事はわかるよ」
「すげー、それってばやっぱ愛の力?」
「ふぅ」
俺はわざとらしく、それはそれは大きな溜め息をついて見せた。
「そんな風に溜め息つかれると傷つくんですけど……」
こんなことで傷つく玉かと思っているが、そう、こいつの誕生日の話をしていたと言う事を思い出た。

「まあ、言うだけ言ってみなさいよ」
「カカシ先生の一人エッチが見たいってばよ!」
「死ね!」
俺は巻き終わった巻物で、もう一度、ナルトの頭を思い切り叩いた。
「うわー、本気でぶったな!」
「そんなもの見て何が楽しい!」
「男のロマンだってばよ!って、うわー、タンマタンマ!」
再び振り上げた巻物をナルトに奪い返されてしまった。

「んなに照れ無くてもいいじゃねーか。じゃあさ、俺の一人エッチ見たい?」
ナルトは巻物をそそくさと仕舞いながら、さっきの笑いよりも更に悪戯っぽい笑みを向けて来た。
「お断りします」
俺はにべもなく突っぱねた。
誰が見たいか!
「なんでなんで?俺がカカシ先生のこと思って抜くとこ見たくねー?」
「興味ないね」
「ちぇっ、俺は、カカシ先生が俺のこと思って、一人エッチする所、すげー見たいのになー。ケーチ!」
ケチで悪かったな。
しかし、今時の子の考える事は、もう先生にはわからないよ。
可愛いおねだりを期待していた俺は、ジェネレーションギャップに頭を抱えたくなった。


「で、プレゼントは要らないんだな」
「だって、カカシ先生はぜーんぶまるごと俺のもんなのに、そのカカシ先生からなんか貰うって変だろ〜」
「!」
いや、もう、本当に、今時の若者の考えはわからないよ!
「カカシ先生、照れてんの?かーわいーー」
俺は、呆れて言葉に詰まっただけだ。
図々しい事を言うなって怒鳴りつけてやろうかと思ったが、やっぱり誕生日の話をしていると言うことを思い出して、俺はぐっとこらえた。
ま、何もいらないなら、安上がりでいいよね。


「そうか、特に要望がないなら一楽の無料券一年分でもやろうかと思っていたんだが、それもいらないね」
「うっ、一楽一年分!」
面白いようにナルトの顔色が変わった。
喉から手が出るほど欲しいって顔中に書いてある。

俺は、ナルトにはラーメンばかり食べてては駄目だって口が酸っぱくなるほど言っている。
俺の前では食べないようにしているようだが、俺の目を盗んで、任務の帰りに一楽に通っているのは知っていた。
それでも、帰って来てから夕飯もしっかり食っているから、育ち盛りだしと大目に見ていた。
だから、俺からの一年分の券は魅力的だろう。


ナルトがどう出て来るか、俺は内心ニヤニヤしながら待っていた。
「先生から貰いてーもんは特にねーけど、先生は俺のもんなんだから、先生のものも俺のものだってばよ!」
お前、どんだけ図々しいんだ!
「だから、一楽一年分も俺のものだってばよ!いっただきまーーす!」
いきなり飛びかかって来て、俺は床に押し倒されてしまった。

「持ってないから!まだ無料券は買ってないから!」
「無料券も俺のものだけど、先生も俺のものだから、構わないってばよ!」
「こらお前、明日の準備がっ」
「もう終わったってばよ。次は先生の準備だってばよ!」
それ、わけわからないから!

ああ、本当に、十月は慌ただしい……







end








ジャイアニズム(笑)


2010/10/10




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