暗部時代のテンカカ








First Poison


ver.カカシ














「お前、もう済んでいるの?」

って、聞いた時のテンゾウの顔!
黒目がちのでかい目を更に大きく見開いて、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、可愛いったらなかったよ。
真っ赤になって、しどろもどろになって、俺から目を反らしたりしてね。




ま、ちょっと、からかってやるつもりだったんだーよ。


最近、やけに暑苦しい視線を俺に送って来るからね。
俺が振り向けば、ばっと顔を背けてさ、あれで俺が気付かないとでも思っているのかね。
尊敬する先輩に向けるには、ちょっと危ない眼差しじゃない?

全く、俺の後ろを走りながら、どこを見ているんだか。
尻に突き刺さる熱い視線を感じながら、俺はおかしくっておかしくってしょうがなかったよ。
吹き出しそうになるのを堪えるのも、大変だったんだから。
お前どこ見ているのって、今にも口から出そうで、俺は俺で苦労してたのよ。


初めて会った頃は、理屈っぽくて頭でっかちのガキだと思ったものだけれど、なぜか俺のことを盲目的に信頼してくれちゃって、カカシ先輩、カカシ先輩って懐いて来て、ま、あれだけ懐かれりゃ、悪い気はしなかったーね。
暗部のすれっからし共とは大違い。
奴も大変な出自みたいだけれど、ちょっぴり根暗そうな割には純でね。
真面目だし、才能も秀でていたけれど、努力家でもあったし。
俺も俺なりに可愛がっていたわけよ。

それがまあ、ガキだガキだと思っていたけれど、いつの間にかお年頃になっていたんだねぇ……
子ども子どもしていた体つきも、随分しっかりして来たし、そろそろ毛も生えそろった頃かな……
なんて、微笑ましく思っていたんだよね。


だけど、俺に対する気持ちは、憧れでしょ。
だって、俺は暗部一の使い手だし、写輪眼だし、優しいし、温和だし、しかも見目麗しい美青年と来てるんだから、憧れちゃうのも無理は無いじゃない。

はっきり言って、俺は高嶺の花でしょ。
憧れは憧れのまま、手の届かない所に咲いていた方が、それっぽいでしょ。
麗しい先輩に淡い恋心を抱いた昔もありました……なんて、その内思い出の美しい青春の一ページになるんじゃないの?

ま、いずれ、目が覚めるでしょうよ。
テンゾウの奴、ゲイってこともバイってことも無さそうだしね。
無理矢理、猥談を聞かされて、前屈みになっていたしさ。

もう少し外に目が向くようになったら、同年代の女にも関心を持つでしょ。
その前に、暗部の悪い奴らに花街にでも放りこまれて、揉まれて来るかな。
こんな所に在籍していたら時間の問題だよね。



あれが女とねぇ……と思ったら、ちょっとむかついたわけ。
だって、先輩、先輩って纏わりついて、俺の尻を食い入るように見つめては、真っ赤になって目を反らしている奴が。
他所の女に食われちゃうのかぁ。
それとも、バカ正直に、男の抱き方を知りたいんです、なんて告白をして、男を経験して来ちゃったり?


それも、ちょっとねぇ……

なんかねぇ……

どこの馬の骨かわからない奴に食われちまうなら、俺が先に摘み食いしちゃっても、いいんじゃない?
変なのに当たっちゃったら可哀想だよねぇ。
失敗でもして笑われてトラウマになったりして。
勃たなくなっちゃうなんて、ベタなオチもたまに聞くよね。
あれで結構、真面目だからねぇ。
アレ、剥けてんのかねぇ。
そういや、最近、俺の前で、スッポンポンになって着替えないなぁ。

それはともかく、筆下ろしって言うのは、記念に残りそうだよね。
一番最初の相手って言うのは、これまた美しいメモリーになったりするのかな。
俺?
俺は、そんなこととっくに忘れちゃったーよ。
テンゾウの奴、俺のこと、あーんなに憧れているんだから、勿体ないじゃない。
ちょっかい出しちゃっても、罰は当たらないんじゃない?

それとも、なに?
もうとっくの昔に、そっち方面は経験済みだったりして?
いや、そんなことはないだろう?
時間があれば、24時間だって、俺の後ろをくっついて歩いているんだから。
どこかの馬の骨にふらふらと靡いて着いて行っちゃうような事は、ないと思うけど……
変な虫がついても困るし、変な虫に食われでもしたら、可哀想だよね。


そんなことをつらつらと考えていたら、「お前、もう済んでいるの?」なんて台詞が、ついつい口から飛び出ちゃったわけよ。





「ね、オカズはナニ?それとも、誰、かな?」


なんて、我ながら意地の悪い質問の仕方だーね。
お前、そんな真っ赤になって、しどろもどろになっていたら、バレバレだって。
オカズは先輩ですって、顔に書いてあるよ。
おかしくっておかしくって、笑いをこらえるのも大変だ。

お前、本当に忍者なの?
俺が、してあげる、なんて言ったら、どうなっちゃうんだろね。
これ以上、どんな顔をするのか見てみたいもんだ。
喜ぶのかなぁ。
それとも、滅相もありませんとか言って、逃げていくか?
ついつい好奇心に負けて、「俺が筆下ろしをしてあけようか」なんて事まで言っちゃったわけよ。
そしたら、見事にテンゾウは固まった。



テンゾウ?

テンゾウ?

お前、大丈夫か?

目を開けたまま失神しているんじゃない?
それとも、意味、わかんなかったのかな。
心配になった頃、「お願いします」って勢い良く頭を下げられて、またまた吹き出しそうになったよ。


いや、本当に可愛いよ、お前。
俺とやりたいなら、お前の口から、ちゃんと言ってみな。
どうしてもって言うのなら、俺が直々にご指導してやるからさ。
赤くなったり蒼褪めたり、めまぐるしく変わる表情を見ているだけでも、楽しいんだよね。
女の方がいいんじゃないの、とかまをかければ、夢中で首を振っちゃって。
女より、男がいいんだ?
男の俺がいいんだ?
そんなに俺のケツに執着してたんだ?



どれ……

おや、本当だ。

もうこんなになっている。

ひょいと股間に手を伸ばしてみたら、テンゾウってば、もうおっ勃ててるの。
俺とやれると思っただけで、こんなにしてるなんて、可愛くってたまんないね。

「ほら、そんなに固くならないで」って言っても、硬い方がいいに決まっているけど。
ふふふ、この分じゃ、挿れる前に爆発しちゃうんじゃない。
一回、抜いてやるかな……

たっぶりね、俺が絞り取ってやるよ。






そんなこんなで奴もノリノリだったから、俺が筆下ろしをしてやる事になったんだけれど、いつも可愛い奴だけど、ホント、可愛いったらないの!
任務の時以上に、真剣で、それ以上に、目をギンギンにさせちゃって。
同じもんぶら下げているって言うのに、そんなに珍しいかね。
そんなに、見詰められたら、穴が開くデショ。
いや、穴は既に開いているんだけれど。
食い入るようなテンゾウの視線。

もう!
そんなきつく尻を掴んだら、痕が残っちまうだろ。
俺は情事の痕を残されるのは嫌いなんだよね。
テンゾウ!
こら、テンゾウ!って、もう聞こえてないな。
仕方ないなぁ……
ほら、テンゾウ、お前の手はこっち!

はい、とか、すみませんとか、一々可愛い返事をしていたけれど、段々余裕が無くなって来て、ハアハアゼエゼエしながら、突っ走り始めた姿も、また可愛いじゃない。
なんか、俺のことそんなに好きだったの?ってのが、ひしひし伝わって来てさ。

俺の中に入って来た奴の顔ったら!
歯を食いしばって、俺に向かって腰を振る姿ときたら!
俺の中にぶちまけた瞬間の顔ったら!

そして、終わった後の茫然とした顔ときたら!!







「うふふ、どうだった?」
ようやくテンゾウが抜け出て行った身体をシーツにうつ伏せにして、俺はテンゾウに問い掛けた。
奴と来たら、俺の足元で正座しているよ。
「最高でした!」って、ま、お前の様子を見りゃわかるし、当たり前だよね。
お前も、最初にしては、なかなか、頑張った方だよ。
後は自信を持って、女をこまし……じゃなっくて、女ともして来たらいいよって、俺は先輩らしく勧めてやったのさ。

そしたら、どうだろう!
何か俺に訴えかけたいのに、上手く言葉を探せないって表情ありありで、もどかしそうに唇を噛んで言い淀む。
やる前よりも、もっともっと熱っぽい視線が、俺の肌に刺さるようだよ。

ふふ、そんな目で見詰められ続けるのも悪くないね。
俺のことで、頭も胸も股間もいっぱいにさせているなんて、ほんと、悪くないよ。
もっと、もっと、もっとだよ、テンゾウ。

察してくださいとか、気がついてくださいとか、悔しそうなそんな目で見詰めていたって駄目。
溢れるほど俺のこと考えて、考えて、溢れさせてごらんって。


俺はテンゾウのくるくる変わる表情と顔色を眺めているだけで、楽しい気分になる。
テンゾウが感情をいっぱいに溢れさせるのも、また楽しみだーよ。
ああ、だけど、感情を溢れさせるのもいいけれど、くすくすと笑う度に尻から溢れて来る物はちょっと不快だね。
身体中がベタベタで不快なのも思い出したら、腹も空いて来た。

シャワーを浴びて、飯でも食いに行こうと、俺はベッドから立ち上がった。
そしたら、やっぱり、尻に突き刺さるようなテンゾウの視線を感じるもんで、思わず笑いが零れる。
さんざん鷲掴んで、揉んでくれた癖に、まだ飽きないのかねぇ。
まだまだ俺のケツを追い掛けて来るのかな。

「テンゾウ、シャワー浴びたら、何か食いに行こう」
「は、はい!どこまでもお供します!!」
どこまでもか。
間髪をいれずに返って来る返事に、俺は笑みを深めた。














きつい任務が終わって二人揃って帰宅した俺たちは、装備を解くのももどかしく、昂ぶる熱をぶつけるように抱きあった。
何度か熱を放出し、ようやく人心地が着き、俺は俺の頭を片腕に乗せて引き寄せるテンゾウの太い腕を、ぼんやりと眺めていた。
実戦用の筋肉をまとい、木ノ葉で唯一、木遁を操る腕。
いつの間に、こんなにがっしりとしたんだろう。
ひょろひょろしていたガキの頃が嘘みたいだーね。

ふと、ガキだった頃のテンゾウを思い出した。
金魚のふんみたいに俺の後ろばかりを追い掛けまわしていたっけ。
こいつは中々、根性のある奴で、どんな時もどんな任務の時も、歯を食いしばって俺の後を追い掛けて来たったけ。
先輩、先輩って、あんまりにも懐くもんだから、俺も悪い気はしなくって、それなりに可愛がってやっていたんだよね。
それがいつの間に、俺のケツそのものにも興味を持っちゃったわけだ。
まさしく俺のケツを狙って追い掛け続けて来たんだーね。

どこまでもお供します、なんて言ってさ。
今じゃ、背中を預けて共に闘って、俺に並んで疾走するテンゾウ。
本当に、こんなところまで来たってことか。
思い出し笑いに顔が緩む。


「先輩、何を考えているんですか?」
「ん、お前のこと」
「また、そんな事を言って。ボクとこうしている時に他のことなんか考えないでくださいよ」
お前のことだって言っているデショ。
一体、いつからそんなに疑り深くなっちまったんだ。
あの頃は、素直だったのにねぇ。

「他のことなんか考える余裕があるなんて。ボクはまだまだ精進しなければいけませんね」
なんて言いながら、その不埒な手はなんだ。
今も昔も変わらずに、俺の尻はそんなに魅力的か?
さんざん撫で回して吸いついて、あんなこともこんなこともしただろう。
俺の尻はそんなにお前を惹きつけて止まないか?
まだまだ飽きないなんて、呆れるほどだよ。
それにしても、お前、図々しくなったよね。

五月蠅げに振り払おうとした手を掴まれる。
「余所見をしないで、カカシ先輩。ボクだけを見て」
テンゾウの手の中に握り取られた指先に、テンゾウの唇が触れる。
指先から、テンゾウの思いが流れ込んで来るような口付けだった。
本当にお前って……


ま、それは、ともかく、運動した後は腹が減るのよね。
「テンゾウ、腹減った。飯」
「帰宅したばかりだから何もありませんよ」
そうだった。
元々、買い置きはあまりしないが、長期任務の前は冷蔵庫も空っぽにして行くんだよね。
テンゾウの手から取りかえすように、するりと自分の手を引き抜くと、テンゾウはやや残念そうな顔をする。

「何か、食いに行くか。久しぶりに一楽でも行くか?」
テンゾウの腕から抜け出て、先にシャワーを浴びようとベッドから降りる。
「はい、お供します」
背中に聞こえたテンゾウの返事に、俺の笑みは益々深くなった。







end








あとがき
あまりカカシ先輩側からの思いを書いたことが無かったような気がするので、
一度、カカシ先輩が、後輩の事をどう思っていたのかを書いてみたいと思っていました。
両思い至上主義としては、絶対にカカシ先輩も最初からテンゾウのことを憎からず思っていたはず!!と言うのが大前提にありました。
テンゾウの思いは、雛が初めて見たものに懐くようなもの、憧れのようなもの、だなんて思いながらも、
他の人間に目が行く前に、食っちゃえ!と考えてしまったカカシ先輩でした。


2010/07/07


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