暗部テンゾウと上忍師カカシ先生








うさぎ、忍び参る!














「何よ、その恰好」
「えっ、先輩、ボクだってすぐにわかりましたか」
「わかるに決まっているだろ。そんな奇天烈な恰好して、新年会の余興の練習?」



ボクは、カカシ先輩の部屋で、電気もつけずに先輩の帰りを待っていた。
電気などつけなくても、先輩は結構夜目が効くから、ボクの姿をすぐに見つけるだろうことはわかっていた。
わかってはいたが、いつもと違うボクの姿を見つけてどんな顔をするのか楽しみにしていたのに、先輩は部屋に入るなり、座布団の上に正座していたボクをすぐに見つけて、呆れた声を出した。

「そのぉ…ボク、うさぎに見えませんか?」
「見えるから、なんの真似か聞いているんだろう」
ああ、やっぱりうさぎには見えているんですね。
うさぎの姿になっているのに、一目でボクだと見極めてくださったと言うことですね。
これは愛ですね、きっと!


「どんなうさぎに見えますか?」
ボクは気を良くして、先輩の目にはどんなに可憐なうさぎの姿に映っているのか聞いてみた。
「どんなって、猫がうさぎの耳をつけているようにしか見えないよ」
何か話が噛み合わない。
「猫?先輩にはボクの姿が猫に見えるんですか?」
ボクは驚いて、素っ頓狂な声を上げた。
先輩の方と言えば、怪訝そうに首を捻っている。

おかしいな?
このうさ耳をつければ、『兎忍』と同じ姿に見えるはずなのだが。
『兎忍』とは、うちは一族と関係が深い『猫忍』同様、忍びに特化した兎族だと言う話だった。
『兎忍の里』と言う場所に住んでいるらしい。
彼らは『兎忍の里』の中では、小型の人の姿を取り二足歩行していると言う噂だった。
まだ誰も『兎忍の里』を見たと言う者はなく、全てはあくまでも噂話に過ぎなかった。
それが最近、『兎忍の里』かも知れないと言う場所が発見された。
そこで、暗部が『兎忍の里』に潜入調査に入ることになった。
そのために開発されたのが、今ボクがつけているこのうさ耳カチューシャだった。
バニーガールがつけているようなうさぎの耳を模した物なのだが、これをつけていれば兎の里にいる兎忍と同じ姿に映って見えるはずなのだった。
擬態と言うか擬人化して見えるはずだった。

『猫忍』対策用の猫耳を元に開発された物なので、もしかして失敗作だったのだろうか。
それとも、ひょっとしてこれは猫の耳だったか?
ボクは、自分の頭の上に飛び出ているはずの耳に触れて引っ張ってみた。
確かに長い耳だった。
元の人間からイメージされる『兎忍』の姿に見えるようになると言うことで、ボクは黒い耳を支給されたのだった。



「だから、そんな耳をつけて、ラインダンスでも踊るの?まさか、バニーガールの恰好でもしようって言うんじゃないだろうね?全く、お前らの考えることはわからないよ」
耳を弄っているボクに、先輩はさも呆れたと言わんばかりに長い溜息をついた。
先輩の言う『お前ら』と言うのは、ボクたち現役暗部の事だ。
確かに暗部連中のする宴会は常軌を逸している。
普段は、生死をかけたギリギリの任務をこなしている暗部の連中だからこそ、羽目を外す時は滅茶苦茶だった。
彼らならバニーガールどころか、マッパでラインダンスだって朝飯前だろう。
でも、それはカカシ先輩がいる頃からの伝統だと伺っていますよ。

それにしても、うさ耳をつけても、『猫忍』同様に猫の擬人化に見えてしまっては、これは失敗だ。
誰も確かめなかったのだろうか。
こんな体たらくでは、最近の暗部はたるんでいるとカカシ先輩に幻滅されてしまうではないか。
まだまだボクたちは敬愛するカカシ先輩の足元にも及ばないと言うのに。
もっともっと精進しなければと新たな誓いを密かに燃やす。
ふと先輩の顔を凝視すれば、普段は閉じられている左目が開いていた。

「カカシ先輩、写輪眼を使いましたね!」
流石にカカシ先輩でも自宅に帰れば額当ては外す。
勿論、マスクも引き下げられている。
時折り左目を開けていることもある。
ボクには見慣れた姿だった。
「だってお前、先に帰っている気配はあるのに電気もつけずに息を凝らしているんだもの。何か企んでいると思うじゃないか」
ボクはガクリと肩を落とした。
目論見は最初から失敗だったと言うわけだ。


「これ、『猫忍』カモフラージュ用の耳と同タイプのものなんですよ。『兎忍』用に開発されたんですけど」
カカシ先輩はなるほどとひとつ頷いた。
「俺にはその手の幻術タイプの忍具は効かないよ」
そうでした。
先輩の写輪眼は幻術を見抜き、一度見抜いてしまった幻術には二度と引っかからない。

「でも良かったーよ。お前が可笑しくなっちまっんじゃないかと心配したよ。でもお前だったら、そのまま『猫忍の里』に忍びこめるんじゃない」
と、からからと笑う。
先輩、その冗談は笑えませんよ。
ボクはまるで馬鹿みたいじゃないですか。
猫にもうさぎにも見えていなかったなんて。
大の男が、ただうさ耳を付けて待ち伏せしていましたって落ちだなんて。
カカシ先輩はボクの事を、猫顔だ猫顔だと言うけれど、決して猫耳なんか似合わないし、ましてうさ耳なんて似合うわけはない。
こんな耳が似合うのは……
そうだ、こんな耳が似合うのは……

「じゃあ、カカシ先輩、今度の任務変わってくれますか?」
うさ耳のカチューシャを取り、早業で先輩の頭に装着させた。
途端に、ボクの目に映る先輩の姿が変わった。

ゴクリ……

思わず喉を鳴らした。



か、可愛い……

なんて可憐な姿なんですか、カカシ先輩!
目の色こそ、赤と蒼のオッドアイそのままだったけれど、姿形は完璧にうさぎ人間だった。
カカシ先輩のスリムな体は、まるでメルヘンの世界に住むうさぎそのものに成り変わっていた。
下半身に行くほどぽってりとした着ぐるみのようなうさぎ体型。
そして、全身、触り心地の良さそうな銀色の毛に覆われている。
つけ耳はちゃんと直接頭から生えて見えるし、その耳の色も身体と同じ銀色に変化していた。

「せ、先輩、尻尾は?」
ボクは思わずどもりながら先輩の尻を覗き込んだ。
どんなにグラマーなバニーガールだって、どんなにセクシーなカバーガールだって目じゃないって言う光景がボクの目の前に広がっていた。

ハレルヤ!!!

せ、せんぱいのもふもふしたプリティーな尻に、ボンボンのようなまん丸い尻尾が生えている!!
夢ではなかろうか。
目眩がする!
血圧が上昇する!
鼻息が荒くなる!


「な、何よ。お前、顔、怖いよ……」
二本の足で立ち、人間の形ではあるものの、その口元と来たら!
兎が一心に草を食んでいるように、モグモグと蠢く。
黒い鼻の両サイドから生えたヒゲが、ヒクヒクと動く!
それらはうさぎとなんら変わりなく、この世のものとは思えないほどキューティーだった!!


「ちょ、ちょっと……側に寄るな!」
み、耳がーーーーーーー!!!!
怯えるように後ずされば、片耳がへにょりと萎れるように垂れた。
口元に持って来た手は、もふもふの手袋をしたように大きく丸い。


「せっ、せっ、せっ、先輩、もふもふしていいですかーーーーーー!!!!」
「寄るな!こら、テンゾウ、お前、きもい!!触るな、離せ!!」
逃げを打つうさぎを捕まえたと思った途端、ボクの腕の中にいたのは、いつもの先輩の姿だった。
ボクのスピードを遥かに超える早技で、先輩はうさ耳カチューシャを取り去っていた。
そして、うさ耳はボクの頭の上に戻っていた。
ボクが付けても先輩の目には、なんら変わって見えないだろうに。



「そんなにうさぎが好きなら、自分の姿を鏡に映してうっとりしてりゃいいだろ」
「自分の姿なんか見たって、ちっとも面白くもありませんよ」
先輩だから萌えるんです。
カカシ先輩だからこそ、どんな姿でも萌えるんです。
「先輩のうさぎ姿は最高でしたよ!」
「そんなの褒められても俺もちっとも嬉しくないよ。全く、うさぎは一年中発情しているって言うじゃないか、お前にお似合いだよ」
先輩はボクに抱きしめられたまま肩を竦めた。

「先輩、それって誘っているんですか?」
「はあっ?どこをどう受け取ったらそうなるんだ?」
カカシ先輩は呆れたように呟く。
もふもふも捨て難かったが、このしっかりとした肉体の抱き心地も最高です。
モグモグと蠢く口も可愛かったですが、そのうっとりするほど形のいい唇も、いつだってむしゃぶりつきたくなるくらい最高です。

「だってボクは今、うさぎですからね。先輩がうさ耳を付けてくれたんですよ?」
そう言うと、耳をむしり取ろうと先輩の手が伸びて来たが、今度はボクの方が早かった。
白く長い指を捕まえる。
この指も手も大好きです。
捕えた手を返し、掌に口付ける。

「ボクはカカシ先輩に一年中、欲情していますよ」
「うさぎなんて可愛いもんじゃないね。お前は、ケダモノだよ、ケダモノ」
ケダモノ、大いに結構です。
「ええ、ボクはケダモノですからね、御馳走を前に我慢なんか出来ないんです」
一年中、カカシ先輩に餓えているケダモノです。
背中に回した腕に力を入れて先輩の身体を引き寄せる。

「全く、猫の癖にうさぎの皮を被ったケダモノか」
カカシ先輩の腕が持ち上げられ、ボクの後ろに回る。
今度ばかりは先輩の手の行方を邪魔することなく、ボクは素直に頭を引き寄せられる。
「俺は御馳走なんだ?」
笑みをたたえたカカシ先輩の美味しそうな魅惑の唇が近づいて来る。
はい、食らっても食らっても食らい尽くせない、いつまでたっても飽きることのない最高の御馳走です。

「先ずはこの美味しそうな唇から頂いてもいいですか?」
唇と唇が触れる距離で囁く。
何か返事をしようと開き掛けた先輩の唇を、己の唇で塞ぐ。
言葉も吐息も全てください。

互いの唇をしっとりと重ね合わせて、
何度も吸って、繰り返し繰り返し舌を絡めて、
カカシ先輩の手がボクの背中をさ迷い、縋りついて来る頃、
ボクの頭の上からパサリとうさぎの耳が転がり落ちた。
そしてボクはただのケダモノになって、カカシ先輩の全てを余すところなく食らい尽くす……







end








あとがき
萌えの王道!!一度はやりたかったうさ耳を卯年に因んで、テンカカで書いてみました。
テンゾウのうさ耳だけで終わらせてしまっては、残念無念かと思い、
カカシ先輩もうさぎになーれ!と思った結果、まるまるうさぎになってしまいました(笑)
イメージはピーターラビットか!
ともかくうさ耳とうさぎを書いてみたかっただけなので、ヤオイじゃないのに内容も無い!オチも無い!
その癖、ヤオイのようにフェードアウトしているのは芸風です(笑)

アニメのオリジナルストーリー「サスケの肉球大全」と言う回に、
擬人化された猫の『猫忍』と言うのが出て来ましたので、『兎忍』を捏造してみました。
今のところ『兎忍』はフィクションです(笑)
それから「兎は一年中発情期」と言うのは、正しくは「決まった繁殖期を持たない」って事らしいです。


2011/01/09




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