UFO













つくづく思うんだけどね。
テンゾウって変でショ?
そう思わない?
思うだろ?

どこがって?
全部だよ。
何もかもおかし過ぎるでショ。
木遁忍者だからどうのこうのって話じゃないよ。
あいつの存在自体が、なんか変でショ?
絶対に普通じゃないでしょう!



だってねぇ……
俺は、第一に覆面忍者だ。
そして、更に喜怒哀楽の激しい人間じゃないし、わかりやすく感情を表す方じゃない。
どちらかと言うと表情も感情も、読み難い人間だと思うんだよね。
忍びたるもの感情を押し殺すべし……なんて事を普段も実践しているわけじゃないけどね。
ま、とにかく、普段は寡黙だし、ポーカーフェイスはお手の物なわけよ。
それなのに……


「カカシ先輩、良かったらビールでも飲んで行きませんか?」
任務の帰り道、丁度、飲み屋街に差し掛かった所で、奴はそう声を掛けて来たりするんだよね。
俺はいつものようにイチャパラに視線を落としながら歩いていたし、そんな素振りも見せなかったのに何故?
どうして俺が、今日はなんだか一杯引っかけて帰るのも悪くないかもねぇ、なんて思っていたことがわかるわけ?
しかもだよ、俺は普段、あまりビールを飲まないのを知っているのに?
こいつ、もしかして、人の心が読めるの?

居酒屋で向かい合ってビールを飲んでいたって、本当にいいタイミングで注ぎ足して来る。
ま、こいつは元々気遣いの出来る人間だし、俺のことは先輩だからと言うことで、いつだって気を使ってくれているって言うのもあるけどね。
それにしても、俺の心を見計らったような絶妙なタイミングなんだよね。
ミナト先生なら「ん、ナイスだよ」って絶対に褒めてくれるほどのグッドタイミングだ。
でもって、そろそろ腹も一杯、もう酒もつまみも沢山、後は帰って寝るだけだねぇ、なんてのほほんと考え出した頃合いまでわかるのが凄いよね。
「そろそろ帰りましょうか」って、奴が口にした時には、もうお勘定まで済んでいるんだから、恐れ入るよ。



こう言うことは、任務の帰りや飲み屋だけでの事じゃない。
家にいたってそうなんだよねぇ……
喉が渇いたとか、そろそろ休憩しようかとか、俺が自覚するよりも、ほんの少し早く奴は動く。
「お茶入りましたよ」って、目の前に湯気の立つカップが差し出される。
俺はその温かそうな湯気を見て、そういや喉が渇きを覚える頃だったかな、とか、そろそろ一服、と考え出す時期だったな、なんてことに思い至るわけだ。
俺が自覚するより先に気がつくってどういうわけ?


しかもしかも!!
「ん、これ?」
カップの中を覗くと珍しくコーヒーじゃない。
「たまにはミルクティーもいいかなと思いまして。甘さ控えめで作りましたが如何です?」
俺がカップに口をつけるのを、黒目がちの目がじっと見詰めている。
一口飲むと仄かな甘さが身体の中にじんわりと心地よく広がって行く。
俺は、やはり普段は甘いものを取らないのに、今日に限って少し疲れていて甘いものでも取るべきか、なんて思っていたところだったから、本当に美味しかった。
ほっと一息ついた俺の顔を見て、奴は本当に嬉しそうに目元を綻ばせた。
なんかね、その顔だけでもね、更に安堵しちゃう俺ってどうなの?

そしてまたある日は、たまにはほうじ茶が飲みたいなーなんて思っていると、やっぱり目の前に、すかさずほうじ茶が出される。
ある日は、ココアだったり、冷たいものだったり。
これって、何よ?
本当に、本当に、俺の心の中が見えるんじゃないの?
そんなこと、本当にあるって言うの?


だって……
でも……
もしかしたら……
もしかしたら……
こいつならって、思うんだよね。
そうじゃないのかなって……


俺は本気でほんのちょっぴり疑っている。
バカらしいと思いながらも、疑わずにはいられないでいる。
もしかしたらって……




幻術の類だったら解けるだろ?
俺は、こいつが寝ている隙に、幻術を解こうと試みたこともある。
馬鹿らしいと思いながらも、「解」って、やって見ずにはいられなかった。
それから、更にアホらしいと思いつつ……
熟睡している時なら、もしかして鏡に映らないんじゃないかと、こっそり試してみたりもした。
合わせ鏡で試してみたりもした。
本当に、アホらしい馬鹿らしいと思いながらね……
だって、本当に不思議過ぎるから。

しかも寝顔を見ていて思ったのだけれど、いつのまにこんなに成長したの?
生っ白くてひょろひょろのガキの頃から知っているのに……
ずっと成長する過程を見て来たはずなのに……
一体、いつこんなに化けた?
こんな顔していた?
こんな身体していたっけ?


不思議なことがいっぱいだった。
今日だって、
「カカシ先輩?先輩?どうかしましたか?」
そんなことをつらつら考えながら、ポーっと奴の顔を眺めていたら……
俺の唇をすかさず盗んで行きやがった。
「ちょっ、いきなり何よ!」
「すみません。なんか、カカシ先輩があまりに魅力的だったものだから」
って、なんだそりゃ。

言い訳になっていないよね。
幾ら油断していたからって、俺がやすやすと唇を盗まれちゃうなんて、おかし過ぎるでショ!
写輪眼のカカシが!
絶対にこいつよりまだまだ実力は負けていないはずのこの俺が!
でも……
だって……
信じられないことに、それでも満更でもないとか思えてしまうなんて、やっぱりおかし過ぎるよね!


ああ、そう言えば、初代様の細胞にこいつだけが適合で来たって言うのも、やっぱりそう言うことだったんじゃない?
疑い出したらキリが無い。
そして、こいつの変わり身の早さと来たら、やっぱり普通じゃないでしょう。
普段の優しげな顔しか知らない人間が、あの恐怖による支配を見たら、きっと二重人格なんじゃないかと疑うよ。

暗部の極秘任務についている時や、敵に対する厳しい顔なんかも、豹変し過ぎデショ。
普段は猫みたいな顔をしてさ、なんなのあの変わりよう。
って、猫みたいだからなの?
猫みたいな素顔からして、普通じゃないのかも。

もしかしたら……
もしかしたら?
もしかしたら、化け損なったらこんな感じになるの?


それに、アノ時の顔も、昼間の顔とは違い過ぎるデショ!
あんな顔、俺しか見たことないから、わからないって?
だって、ちょっと、心臓を射抜かれそうなたまらない顔しているんだよね。

だから、俺は、やっぱり最中にも疑って……
もしかしたらって……
あいつの尻に、二本くらい尻尾が生えているんじゃないかって、探ってみたこともある。

「何、ボクの尻を触っているんですか?先輩の手はこっちですよ」って、やっぱりいいタイミングで手を捕えられて、奴の背中に回されちゃったけどね。
それも、良く考えたら不自然過ぎる警戒じゃないの?
ちょっと尻を触ったくらいで、何を慌てたんだろう?
やっぱり何かおかしいでショ。

ああ、だけど、熱っぽく俺の名前を呼ぶ声も……
ちょっと苦しげに眉根を寄せている顔つきも……
目を眇めて俺を見下ろす視線も……
何もかもが俺の鼓動をかき乱すなんて……
この俺が、心臓をバクバクさせちゃうなんて……
やっぱりどう考えても、おかしいでしょう!

この俺が!
この俺がだよ?
こいつの顔に声に指先の熱に……
ときめいちゃうなんて、言語道断でしょうが!
一体、どんな忍術なのよ。
忍術なんかであるものか!
きっと、やっぱり……
もしかしたら、そう言うことなんでしょう?




そして、またある日……
俺は二つ折りにした座布団を枕に寝転んで読書していて、いつの間にかうたた寝してしまっていたんだよね。
「先輩、寝るならベッドで」
遠くから奴の声が聞こえた。
ああ、こう言う時って、本当に気持ちいいんだよね……
もうちょっと……
もうちょっとだけ放っておいて……
目覚めきらずに俺は、適当に生返事をしていた。

「もう、風邪引きますよ」
風邪なんか引くかって思うけど、自分ではもう動きたくないよ。
出来るならこのままベッドに飛んでいたけらいいのにねぇ、なんて埒もないことを考えていると、「失礼」と言う声と共に浮遊感を感じた。
奴が俺の身体を抱き上げたんだ。
強い腕が俺の身体をがっしりと支えて危なげなく運んで行く。
何もかも面倒臭い俺は、安心して身を任せているけれど、良く考えたらこれも絶対に、おかしいでしょ?

何がって?
俺の方が背丈も体重も勝っているんだよね。
数字の上では!
幾ら奴も忍者だとは言え、大の男を軽々と持ち上げ過ぎでしょう!
まるで重力を感じないみたいに!

重力と言えば、奴の体重もおかしいよね。
聞いてびっくりしたよ。
何、あの軽さ。
男の癖にサバ読んでるの?
あの体重でこの筋肉はないだろう?
それとも、やっぱり、もしかして……
もしかして、こいつってば……
地球の重力を無視しているんじゃない?



ベットに下ろされると、擽ったいキスが顔に落ちて来た。
擽ったくって擽ったくって、俺は右に左に顔を振る。
それを追い掛けて、顔中に羽が触れて行くようなキスが降って来る。

「先輩、本当にもう寝てしまうんですか?」
本当も嘘も、俺、眠いんだから……
このまま放っておいて……
ふわふわして、このまままどろんでいたい。
最高に気持ちのいい時間……
ああ、擽ったくって……気持ちいい……

「だったら、いいですよ、先輩はこのままで……何もしないで……」
霞む頭の中に直接囁き掛けられるように、こいつの声が沁み入って来る。
頭の中から全身に分け入って行くように……
「ボクが気持ち良くしてあげますから……」
声に感じる……


ああ……
こいつが触れて行く先から、身体が痺れて行く……
木遁使いの癖に、指先から電流が流れるの?
軽く撫でて行くだけで、そこから燃えるような熱を持つ。
こんな風にじんじんと痺れて来るなんて、おかし過ぎるでしょ……


ああ、どうして?
どうしてわかるんだろう?
俺が触れられたがっている場所が……
指先に目があるの?
それとも、心の中が見えてしまう?


ああ、触られた側から身体が蕩け出す……
熱くなった身体が蕩け出す……
俺の身体が、こんなになってしまうなんて……
あそこも……ここも……
唇からは切な気な溜め息が零れてしまう……
こいつの手を待ちわびて、震え出してしまうなんて……


ああ、この手だけが……
この手だけが、俺をはるかな高みへと連れて行ってくれるみたいに……
この熱に溺れる……
まるで中毒患者のように、この熱だけを欲して……
この熱に焼かれて……


「だめですよ、他のことなんか考えては、ボクのことだけ考えてください」
俺は緩く首を振る。
考えているのはお前のことだけ……
俺の頭の中はお前でいっぱい……
もう、他のことなんか考えられない……


「ボクのことだけ考えて……」
ああ、いつの間にかお前のことで、身も心もいっぱいなんて……


「ここが、いいんでしょ?」
ああ、そこが!


「ボクのことだけ欲しがって……」
身体中がお前を欲しがって過敏に反応する……


誰よりも何よりも俺の心の奥深くまで忍び入って……
信じられないほど熱く激しく俺の身体の中に分け入って……
俺の全てを支配しようと言うの……


お前って、いったいなんなの?
信じられないことばかり……


「これが欲しいでしょう?」
ああ、俺はもうお前の言うなり……


ああ、もうお前が何者でもかまわない……



近頃、俺は、地球の男に飽きてきた所だから……






UFO!






end








あとがき
ピンクレディーの名曲「UFO」を、久しぶりに聞く機会があったのですが、
なぜか頭の中にテンゾウが浮かんで来ました(笑)
宇宙人=テンゾウ?これは、もしかしたらテンカカソング?!
と言うわけで歌詞を下敷きに、ラブリーなテンカカが書けました(笑)

管理人は、テンゾウ視点のお話ですと、カカシ先輩の事を盲目的に狂信的に愛しちゃって、
フェチでストーカー気味のテンカカと言うのが好物なのですが、
カカシ先輩視点のお話になりますと、
子供だ子供だと思っていた可愛い後輩が、いつの間にか男臭くなっちゃって、
いつの間にか胸がときめいちゃって、こんなの信じられな〜いって言う、
カカシ先輩の戸惑いみたいなのが好きなんですよね〜。

このお話のカカシ先輩は、やけにテンゾウって変だよね?もしかして宇宙人?なんて思っていますが、
まあテンゾウは普通よりは尽くすタイプだとは思うんですが、
それでも、まあだいたい普通のことですよね〜(笑)
それを変だ変だと言い張り、無意識に言い訳を探しているカカシさんが萌えなのです!


2012/06/19




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