テンカカ   第四次忍界大戦後   カカシ先輩の片想いから始まるお話 








まちぶせ














1


「ヤマト隊長、カカシ先生を振っちゃったって本当なんですか!」
「ヤマト隊長、酷いってばよ!カカシ先生が可哀想だってばよ!」
「なっ、なんで君たちが、そんなこと!」

往来を歩くボクの目の前に、サクラとナルトの二人がいきなり現れたかと思うと、物凄い剣幕でボクに詰め寄って来た。
そして細い路地裏に連れ込まれる。
二人して物凄い凶悪な顔をしてボクを睨んで来る。
これじゃあカツアゲだよ、ほんと。

確かにボクはカカシ先輩に告白された。
青天の霹靂だった。
しかし、なんでそんなことをこの子たちが知っているんだ?
つい昨夜のことなのに……





昨日、ボクの部屋にいきなりカカシ先輩が尋ねて来た。

玄関のドアをノックしてやってきたのではなく、ふと窓の外に気配を感じて読んでいた建築関係の本から顔を上げたら、窓の向こうにカカシ先輩がいた。
「なんです、カカシ先輩。任務ですか?」
ボクは窓を開けながら聞いた。
「いや、そう言う話じゃなくってね、ちょっとね……」
「?」
任務じゃ無ければ何が?
カカシ先輩の煮え切らない態度にボクは不審に思いながらも、窓を大きく開けて部屋の中にカカシ先輩を招き入れた。

「相変わらず綺麗にしているね」
カカシ先輩がボクの部屋を訪れることは滅多にないが、いつ来てもボクの部屋はこんなものだ。
それにカカシ先輩の部屋だって、ボクの部屋と似たり寄ったりで、物が少ないのも同じようなものだろう。
「何か飲みますか?」
カカシ先輩に椅子を勧めてボクは聞いた。
「いや、いいよ。すぐに帰るから」
「そうですか。で、何かありましたか?」
任務でなければ、ナルトのことか何かだろうか。
「えー、あのな、その、なんだな……」
カカシ先輩は言い淀み俯き、膝の上に組んだ指をやたら動かしていた。
「?」
それほど言い辛いことなのだろうか。
ボクはカカシ先輩が続けるのを黙って待っていた。


「その……ただ、言っておきたかっただけだから……」
「はあ……なんでも言ってください」
「俺は、その……どうもお前のことが……好きみたいだって言っておこうと思ってな……」
「はあ……」
その時、ボクはカカシ先輩が何を言っているのか意味がよくわからなくて間抜けな返事をした。

今、この人は、ボクのことを好きだと言ったのか?
なんだそれは。
昔、ナルトの修業を二人で見ていた時のことだ。
カカシ先輩は、必死で修業を頑張るナルトに「ますますお前のこと好きになって来たぞ」とかなんとか言って、ドン引きされていた事があるが、そのノリだろうか?
それともこれは新手ギャグなのだろうか?
もしかして、何か罰ゲームか?
負けた奴は、「誰かに告白して来ること」とか?
まさかガイさんとの勝負に負けたのか?
ボクは頭の中で色々な可能性をぐるぐると探り続けた。

俯いたままのカカシ先輩の顔をふと見ると……と言ってもカカシ先輩の顔は片目しか見えないが、至極真面目な顔をしていて、わざわざボクをからかいに来たようにも見えなかった。
この人は、頭がいい人特有と言うか、凡人にはわかりにくい思考回路をしていたりする。
解答だけをぽんと最初に与えて来るように、この話には何か深いわけがあるのかもしれない。
だが、とりあえず、悪ふざけではないのなら、礼のひとつも言っておくべきだろうか。


「はあ、ありがとうございます。ボクもカカシ先輩のことは好きですよ」
カカシ先輩は、がくりと肩を落とし大きな溜め息をついた。
「あのね、俺が言っているのはそう言う好きじゃなくって……」
ちょっと待て!
ボクは心の中で激しく突っ込んだ。
こう言う場合の『そう言う好きじゃなくって』と言う使い古されたフレーズは……
もしかしたらもしかして、やはり使い古された普遍的な台詞に続くんじゃないのか?
この続きは、もしやもしや、あの一言に限られているんじゃないのか?
一体、この人は何を言うつもりだ。
ボクは、思わず身構え、固唾を飲んで続きを見守った。

「俺が言っているのはライクじゃなっくて……ラブの方と言うか……ようするにお前にホの字だと言うか……」
やっぱり、ボクの予想通りに話は展開した。
だけど、カカシ先輩がボクに?
ライクじゃなくてラブ?
ようするにホの字?
これは告白?
ボクはあまりの突然なカカシ先輩からの告白に、開いた口が塞がら無くなってしまった。
どうリアクションしていいかもわからない。
固まったまま、目の前のカカシ先輩をぼんやりと見ていた。
カカシ先輩は顔色を変えるでもなく……と言っても、顔は片目しか見えないが、いつも通りにのんびりとした様子だった。


「いや、あのその……突然でお前も驚くとは思ったんだけどね……その……」
やはりいつも通りの呑気な口調だったが、どことなく困っているような焦っているような様子は伺えた。
「ま、そう言うことだから!言っておきたかっただけだから!じゃ、じゃあ!」
カカシ先輩は立ち上がり、また窓から出て行こうと窓枠に足を掛けた。
「カカシ先輩!」
そのまま行かせてしまえば良かったものを、ボクは何故か呼びとめてしまった。
「な、何?」
カカシ先輩は、窓枠を掴んだまま、ギクシャクと振り返った。

「これ、罰ゲームとかそう言うんじゃないんですよね?」
カカシ先輩は黙って首を振った。
「だったら……なぜ……」
「なぜって?」
「いや、その……なぜ、いきなり告白なんかされたのか不思議でして……」
ホント、なぜ、ボクなんだ?
そして、なぜ、突然、告白を?
ボクは困惑しまくり、頭の中は疑問でいっぱいだった。

「理由が無くちゃ駄目なのか?」
「いえ、あの……そう言うわけじゃ……」
ここで初めてカカシ先輩の声に咎めるような雰囲気を感じとって、ボクはしどろもどろになった。
カカシ先輩は、また溜め息をついた。
今度は小さな溜め息だった。
「お前に脈が無いことはわかったから。ただ俺も一度、自分の気持ちを伝えてみたかっただけだから。時間を取らせて悪かったな。じゃあ!」
と言うなり、カカシ先輩は窓枠を蹴り空に飛び、一瞬で夜空に消えて行った。
取り残されたボクは月一つ出ていない空を見上げて、しばらく呆然と佇んでいた。





2


「カカシ先生のこと嫌いなのかよ、ヤマト隊長ってば、ひでーってばよ!」
「折角、カカシ先生が告白したのに、ヤマト隊長ってそんな人だとは思いませんでしたよ」
サクラとナルトの二人は、口々にボクを責め立てる。

振ったも何も、ボクはカカシ先輩に突然告白されただけだ。
まさに青天の霹靂だった。
思いもよらぬ人からの思いもよらぬ告白だった。
だのに、なぜこの二人が知っているのか。
そして、こうも絡んで来るとは、一体どう言うことだ。

「君たちねぇ、何を知っているのか知らないがこれはプライバシーだから」
ボクがカカシ先輩を振ったなどと世間に知れ渡ってみろ。
ボクの命が危ないぞ。
カカシ先輩の沽券にも関わる話だ。
ボクは知らぬ存ぜぬでやり過ごそうと思った。

それなのに、
「だって、ヤマト隊長に告白するように発破かけたのはあたしたちなんですもの」
サクラの言葉に、ボクは更に驚かされることになった。
「なっ、なっ、なっ……」
開いた口が塞がらない。

「絶対、上手く行くと思ったんだけどなぁ。なんでカカシ先生じゃ駄目なんだってばよ」
「なんで君たちがそんなこと!」
カカシ先輩は、この子たちに何か弱みでも握られたのか?
何かそそのかされたのか?
やはり罰ゲームだったのか。
ボクは、昨日の告白の意味を謀りかねて、実は一睡も出来なかったのだが、おふざけだったとしたら、その方が納得できる。


「だってねぇ?」
「だってなぁ?」
だが、二人は意味深な顔をして頷き合っている。
「ちょっと君たち、大人をからかうとどんな目に合うのか知りたいのかい?」
ボクは彼らにずいっと顔を近づけ、カッと目を見開いた。
「か、からかってなんかいませんよ!わたしたち、カカシ先生の味方なんですから!」
「そうだってばよ、俺たち真剣にカカシ先生の幸せを願っているんだってばよ!」
後ろにのけぞりボクの恐怖による支配から逃れながらも、彼らは必死で訴えて来る。

「ふぅ……だったら、わかるように話してくれよ」
ボクは壁に寄りかかり腕を組んで彼らの言い分を聞くことにした。
だがボクのそんな鷹揚な態度は、話し始めてすぐに一変することになる。


「だってカカシ先生、もう忍びを引退するって言うんですよ」
「な、なんだって!ちょ、ちょっと、それ本当かい?そんな話聞いてないよ!」
ボクはもう一度、彼らに顔を近づけた。
「ヤマト隊長、か、顔、近い!顔、顔、怖いですってば。今、説明しますからちゃんと話を聞いてくださいよ」
サクラは、激しく飛び退いた。
その飛び退き方って、ちょっと酷すぎやしないかい?
いやそれよりカカシ先輩が引退?
寝耳に水だった。
まさか、そんな……
昨日の告白といい、ボクの寿命は確実に縮んだぞ。

「ヤマト隊長も驚いただろうけど、俺たちだってすげー驚いたってばよ。なぁサクラちゃん」
「そうよねー、確かにカカシ先生、もうおっさんだけど、五代目に比べたらまだまだいけるわよね」
おっさんって……
教え子は厳しいな。
コピー忍者のはたけカカシも形無しだ。

「おっさんだなんて君たち口が過ぎるよ。カカシ先輩はまだまだこれからだよ。これから益々円熟味を増してだな……と、それより、一体なんでまたそんな急に引退なんて言いだしたんだい?」
「ホント、突然、言いだしたんですよ。久しぶりに三人揃ったと思ったら、あたしたちの顔を見て、しみじみと言うんですよー」

『お前たちも立派になったねぇ。サクラはシズネと同じく五代目を継ぐ立派な医療忍者になったし、ナルトもこれで立派な火影候補になったわけだし、もう俺も隠居しても安心だーね』

サクラはカカシさんの口真似をした。
「そうそう、いきなりジーサンみたいな事、言いだしたってばよ」
そして二人は、身振り手振りを交え、カカシさんとの会話を再現してくれた。





『ちょっと何言っているんですか、カカシ先生。あたしはともかく、ナルトなんてまだまだ馬鹿ナルトですよ!綱手師匠が「次の火影はお前に任せるよ」って、酔っ払って言っただけですよ!』
『ちょっ……サクラちゃん、そりゃヒデーってばよ。サクラちゃんはひでーけど、カカシ先生もひでーってばよ。お、俺たちを見捨てるのかよ!』
『捨てるなんて人聞きが悪いねぇ。ただね、俺の身体も結構ぼろぼろだし、お前たちがいれば木ノ葉も安泰だし、そろそろのんびりしてもバチは当たらないんじゃないかと思ってね』

『のんびり隠居決め込むような年じゃないですよ、先生!ガイ先生みたいに熱血青春フルパワーは無理だとしても、まだまだいけますって!それにあたしだってカカシ先生に教えて貰いたいことだっていっぱいあるし……ねぇ、ナルト』
『そ、そうだってばよ!俺だってカカシ先生に、もっともっと修行見て欲しいってばよ。千鳥だって教わってねーし。千鳥、教えてくれってばよーーー』
『あれは無理でしょ、あんた。雷の属性ないじゃない』
『無くたって覚えるってばよ!』
『ま、それはやっぱり無理だな』
『カカシ先生まで酷いってばよ……』

『馬鹿ナルトは置いといて、先生、もしかして左目の具合……良くないんですか?』
『ま、それもあるけどな。ほら俺もペイン戦の時に一度死んだ身の上だろう?平和になった時にもしまだ生きていたら、忍びじゃない生活もしてみたいと思っていたのよ』
『忍びじゃない生活って、何かやりたいことでもあるんですか?』
『そうだね〜。とりあえずは、のんびり本でも読んで過ごすとか〜』
『本ってどうせイチャパラだろ。だったら、今と変わりねーってばよ』
『そうよねぇ。寂しい老後よねぇ……他に何かやりたいことがあるわけじゃないんですよね?』
『俺は四歳からずっと任務についていたから忍び以外のこと何にも出来ないし、したこともないからねぇ。ぼちぼち考えようかと……』
『だからって隠居してイチャパラ三昧なんて寂し過ぎますよ!』

『そうだ、カカシ先生、イチャパラを実践するってばよ!一緒にイチャパラしてくれる相手いねーのかよ!』
『そうですよ、先生!そんな引退だ隠居だなんて寂しいこと言っていないで、これからですよ。これから一花、パーっと咲かせたらどうですか!』
『それがいいってばよ!そしたら、引退だなんて言っていられないってばよ。イチャイチャパラダイスをするってばよ!』

『あのねぇ、お前たち、一人じゃイチャパラは出来ないのよ』
『だから相手を探すってばよ!カカシ先生、好きな人の一人や二人いないのかよ』
『あ、赤くなった!ね、ね、誰です?あたしたちの知っている人ですか?あたしたち応援しますよ!』
『おう!カカシ先生のイチャパラな生活ゲットを応援するってばよ!』





3


「と、言うわけなんですよ」
「はぁ?何が、と言うわけなんだい?さっぱりわからないよ」
「鈍いですね、ヤマト隊長。カカシ先生の好きな人って言うのはヤマト隊長だったんですよ」
「はあ?」
今の話の流れからどうしてそうなる?
ボクにも、もう彼らの世代の考えはさっぱりわからないよ。

「あたしたちが聞き出した所に寄ると、カカシ先生、ずっと心に秘めて思っていた相手がいたんですよ」
「カカシさんがそう言ったのかい?」
「気になる相手がいるって言ったってばよ。昔からの知り合いで、何度も生死を共にした相手で、頼りになる奴だって言っていたってばよ」
それだけじゃあボクとは限らないだろう。
確かにボクは暗部でも一番バディを組んでいたが、あれだけの戦歴のある人だ、他に幾らだって対象者はいるはず。

「だけど絶対に報われない相手だって言って、寂しそうな顔するんですよね」
「あんなカカシ先生、初めて見たってばよ」
「どうして最初から諦めているんですかって聞いたら……」

『まあ、色々と障害もあるし、第一、向こうは俺のことそんな風には絶対に見ていないだろうしねぇ』
『そんなこと本人に聞いてみなけりゃわからないってばよ。最初から諦めるなんてカカシ先生らしくねーってばよ!』
『そうよ、先生らしくないわ!先生一度死んだなら、死ぬ気になるなんてたやすいことでしょう?死んだつもりでアタックしたらいいじゃないですか!』
『俺たち応援するってばよ!』


「って、わけなんだってばよ」
「ちょ、ちょ、ちょっと……それじゃあ、やっぱり相手はボクかどうか確証はないよね?」
「わかりましたよ」
「な、なぜ……」
「わかるに決まっているじゃないですか。それに昨日、カカシ先生に告白されたんでしょう?」

しまった!
例えもしカカシ先輩がボクに告白する決心をしたとしても、この子たちに名前まで言うわけはない。
だったらやはり最初から、知らぬ存ぜぬで貫き通すべきだった。
カマを掛けられたんだと気がつくのが遅かった。
今からでもなんとか誤魔化せないか……
「今からしらを切ろうと思ったって遅すぎますよ、ヤマト隊長」
ボクの考えを先に読んだか、サクラが小悪魔のようににっこりと笑う。


「ともかくカカシ先生、今朝、あたしたちに『見事に玉砕したよ』って報告してくれたんです」
「『やっぱり相手には全く脈が無かったねぇ』なんて悲しそうな顔してたってばよ」
「一度は火影になりかけた男!千の業を持つコピー忍者はたけカカシのどこが不満なんですか!」
「そうだってばよ。ビンゴブックナンバーワンの写輪眼のカカシのどこが不満なんだってばよ!」
「超エリート!高収入!長身で多分超イケメンのハイスペック忍者ですよ!」
「カカシ先生程の忍者いないってばよ!」
二人は物凄い形相をしてボクに迫って来る。
しかし、そんなことは言われなくても全部知っている。
嫌と言うほど知っているさ。
だから、どうした。

「ちょっと待ってくれよ。も、もしだよ、カカシさんがどこかの誰かに告白したとしても、そんないきなり告白されては相手だって驚くだろう?き、きっと青天の霹靂だったに違いないよ」
「えー、そんなに驚く事じゃないと思うんですけど……鈍すぎるわ」
「そうだってばよ。鈍すぎだってばよ」
「だ、だってねぇ、君たち、カカシ先輩はそんな素振り見せたこともなかった……んじゃないかな、とボクは思うわけだよ」
無かったよな?
今まで、だってそんな……
ボクとカカシ先輩はあくまでも、後輩と先輩であり……

ハイスペックなのはともかく、カカシ先輩は口が上手くて、散々乗せられておごらされたり酷い目にも一杯遭わされて来た。
それでも、基本的には面倒見のいい人で、ボクだってどれ程世話になったか。
厳しい掟の暗部の中でも、とりわけ仲間思いで、カカシ先輩に救われた人間も数知れず。
暗部はのみならず、先輩に憧れている者は沢山いる。
ボクだって、先輩に憧れ、背中を追い掛けて一人前になったんだ。
半歩後ろくらいは歩ける程度になったと自負していた。
そして、これは腐れ縁のようなものだと思っていた。
このままずっと、続いて行くものだとボクは高をくくっていた。


「本当に思い当たること、全然無かったのかよ?」
「ボ、ボクは知らないよ。多分、その人には思いもしなかったことだったんじゃないかと想像するだけだからね。その人も、困惑していたんだろう。だからきっと完全に振ったわけじゃないだろう」
何を言っているんだ、ボクは。
あの時、何の返答もしなかったことで、既に終わった話だろう。
何も答えられなかった時点で、自分の気持ちはわかっているじゃないか。

「そうなんですか!?カカシ先生、振られたわけじゃないんですね!」
サクラが早合点して、嬉しそうに手を打つ。
「やったってばよー!早速、カカシ先生に」
「こ、こら、待ちなさい!そう言うことは、他人が軽々しく口を挟むもんじゃないよ」
すっ飛んで行きそうになるナルトの襟首を慌てて引っ掴んだ。

「えー、でもカカシ先生、きっと凄く落ち込んでいるってばよ」
「そうね、やっぱりもう忍者を引退して、隠居して引き篭もりになろうかなんて思っている頃かもしれないわね」
「引き篭もりって、どこに籠るんだってばよ」
「そりゃあ、どこかの山奥とか老人ホームとか?もしかして木ノ葉から出て行っちゃうかもしれないわね……」
「木、木ノ葉から?」
ナルトは泣きそうな顔をして悲鳴を上げた。
まさか、そんな。
こんなことで、カカシ先輩が木ノ葉から消えるものか。
だけど……
ボクの所為で、このままカカシ先輩が消えてしまったら?
ペインにカカシ先輩が殺されたように、日常と言うものは、いともたやすく崩れ去るものなのだろうか。
次々に縁起でもない想像をして悲嘆にくれる彼らを見ていると、ついついボクまであらぬ想像をしてしまう。

ボクはそわそわしだした。
居ても立ってもいられない。
このままでは取り返しのつかないことになりそうで……
「あー、ボクは用があるから、これで失礼するよ」
彼らとの話を切り上げ、立ち去ることにした。

「ヤマト隊長、この時間ならカカシ先生、慰霊碑の所にいますよ」
と間髪を入れず背中からサクラに声を掛けられ、ボクは躓きそうになる。
「カカシ先生をよろしくだってばよー」
そうナルトに叫ばれ、ボクはたまらず瞬身で消えた。



はたして、慰霊碑の前に、カカシ先輩はいた。
見慣れた姿だった。
この人の後ろ姿は、猫背なものだから、いつだって侘しそうに見える。
いつものことだ。
決してボクに振られて悲嘆に暮れて悲しそうに見えるわけじゃないだろう?


なんだっていきなり、引退なんて……
なんだっていきなり、ボクなんかに……

ああ、もうこの人は!


ボクは頭をガシガシとかき乱して一歩踏み出した。



「あの、カカシ先輩」







end







あとがき
当サイトとしては、ちょっと珍しい終わり方にしてみました。
あんまり短くはならなかったけれど、短編を意識したので、
短編にありがちなこんなラストも、たまにはいいかなと思いまして。

カカシ先輩に「まちぶせ」されちゃったヤマト隊長のお話でしたが、
待ち伏せとは、実際にどこかで待ち伏せるだけではなく、精神的にも罠を張るような感じも含めてまちぶせなのです(笑)

カカシ先輩だけがヤマト隊長に恋心を持っていたと言う前提で、
絶対に思いを告げるつもりはないと決心していたとしても、
一度死んだりした後に、何か心境の変化はなかったかなーと考えまして、
教え子に強力にプッシュして貰って、告白して貰いましたが、
実はこれ全部カカシさんの「計画通り、ニヤリ」だったりして(笑)
カカシさんなら、そのくらいの誘導も演技もバッチリだ!
いやいや、でも本当は純情で純愛だったのかもしれません。

このヤマト隊長も当サイトの隊長にしては珍しくノーマルで、
カカシ先輩のことを普通に先輩としてしか慕っていなかったようなんですが、
告白されて「男同士なんてとんでもない」とか思わなかった時点で推して知るべしでした(笑)


タイトルの「まちぶせ」は石川ひとみさんの歌からお借りしました。
小説の内容は特に歌詞とリンクはしていませんが、BGMは是非これで!


2012/12/01、12/28、12/28




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