イルカカ   奥さまは写輪眼






団地妻カカシさん

   




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1


俺の夢は平凡だけど温かい家庭を築くこと。

30歳くらいまでに、幾つか年下の可愛い女性と結婚すること。
とびきりの美人じゃなくてもいい、むしろあまり美人過ぎるのは苦手だ。
静か過ぎたり大人しいタイプよりも、元気な人がいい。
良く笑って、ころころと表情の変わる可愛いひとがいい。
儚げや楚々とした感じよりも、弾けるような明るさを持った人がいい。
病的に真っ白とか言うよりも、むしろ色は黒いくらいでもいい。
鼻の頭にそばかすが浮いているくらい、元気そうで生命力に溢れている人がいい。
それでいて、しっかりもので、優しくって、気立てが良くって、料理上手で……

なんてことを言うと同僚や友人は、
イルカは夢を見過ぎだとか、お前はマザコンか、と呆れて笑うけれど、夢くらい好きなことを語らせてくれってもんだ。
それにマザコンで悪かったな。
優しくって元気で色黒と言うのは確かに母親像に近い。
自分の母親が理想に近いって言うのは、良くあることじゃないのか?
いや本当に俺は、あんまり大人びた人やクールなタイプや、感情の見えない人は苦手なんだよ。

えーと、ふたつみっつ年下で…ってところまではもう言ったか?
背も、できれば俺よりは低い子の方がいいなぁ。
あ、俺は178あるから、俺よりでかい人もそんなにいないか。
抱き締めたらすっぽりと俺の胸に隠れてしまうくらいが丁度いいかな。
だからって、細過ぎるより、少しくらいぽっちゃりしていてもいいぞ。
決して胸がでかいとかそういう事をいっているわけじゃなくてだな。

それから仕事は、くノ一じゃない方がいいな。
全く関係のない一般人がいい。
妻にするなら忍びの世界のことなど知らない人がいい。
任務のことで心配を掛けたくないからな。
くノ一じゃなければ、どんな職についていようと構わないが、あんまり頭脳明晰だったりするのも、困っちまうかな。
彼女さえ承知してくれたら、結婚後は家庭に入って家事に専念して欲しいしなぁ。

中忍の薄給で?……なんてことは言ってくれるな。
中忍の給料だって家族くらいは養えるさ。
俺の給料でやり繰りしてくれる、やり繰り上手で贅沢じゃない人がいい。
朝は彼女の作ってくれた味噌汁の匂いで目が覚める。
そして玄関まで見送ってくれたりしたら、俺は馬車馬のように働くぞ。

子どもは三人は欲しい。
賑やかな家庭にしたい。
えっ?薄給で三人は無理だって?
俺は一人っ子だったし、父母亡き後、身よりは一切ないからなぁ、大家族に憧れているんだ。
大家族で育った人なんかもいいなぁ。
俺にも兄弟が出来るじゃないか。
いっぺんに沢山の親戚が出来るなんて凄いぞ。
名家とかじゃなくていい。
それは元々ねーな。
名家の令嬢と知り合うチャンスなんかねーしな。
えーと、そうそう俺の子どもの話だったよな。
三人は無理なら、二人は欲しい。
彼女に良く似た女の子と俺に似た男の子。
子どもたちの笑い声、彼女の笑い声の絶えない明るい家庭。

花の咲く窓辺では彼女の選んだレースのカーテンが閃く。
そよ風に乗って彼女の呼ぶ声が聞こえる。
あなた、起きて……
あなた、朝ですよ……
そんな風に一日が始まる、俺の結婚生活……








2


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ………


枕元の目覚まし時計の音で目が覚めた。
伸ばした腕で目覚ましを止め、横を向くと俺の肩に白い額が触れていた。
銀色の髪が乱れて額に掛かり目を閉じていると、起きている時より少し幼く見える。

「カカシさん、朝ですよ。カカシさん、時間ですよ」
そっと声を掛けるが、いっこうに目覚める気配はない。
目覚ましの音にもびくともしなかったほどだ。
「カカシさん、カカシさん、起きるんでしょう?もう目覚ましは鳴りましたよ」
仕方なく俺は肩を揺する。
それでようやくカカシさんは、ほんの少し覚醒したのか唸り声をあげた。
「うう〜〜んっ……イルカせんせ……もう少し寝かせてぇ……」
薄眼を開けたか開けないかくらいで、カカシさんはコロリと寝返りを打って再び寝ついてしまった。
「知りませんよ、後でまた泣いても」
この人の寝汚さは天下一品だ。
二度寝、三度寝、何度寝だって繰り返す。
仕方ない……
スースーと気持ち良さそうに寝息を立ててしまったカカシさんを置いて、俺は一人ベッドから降りた。

今朝も俺が朝飯の支度か……と台所に行くと、飯が炊けていない。
タイマーをセットするだけなのに、またセットし忘れている。
俺は朝は白いご飯がいいんだけどな……
これまた、仕方ねー、買い置きのパンでも齧って行くか。
身支度を整えて、インスタントコーヒー用の湯を沸かし、目玉焼きを焼いて、俺は一人で簡単な朝食を取った。
カカシさんに挨拶をして、そろそろ出掛けるかなと立ち上がると、バタバタと忍者にあるまじき足音が聞こえて来た。
ようやくカカシさんが目を覚まし、台所に走り込んで来た。

「イ、イルカ先生、おはようございます!起こしてって言ったのに!今、朝ごはんの支度しますから!」
テーブルに出ていたトースターを見て目を丸くする。
「せんせ、ご飯は、ご飯」
慌てて炊飯器を開けて、水に浸ったままの米を見て、青褪める。
「いいですよ、パンにしましたから。そのご飯は晩飯にしましょう」
「先生、ごめんなさい……」
カカシさんが猫背を更に曲げてしょんぼりと俯く。
「カカシさんの分も目玉焼き焼いておきましたから、ちゃんと朝ご飯食べてくださいよ?」
「あ、ありがとうございます、イルカ先生」
小さく小さくなって、蚊の鳴くような声で礼を言うカカシさん。
カカシさんはいつだって猫背だから、俺たちの身長は同じくらいに見えるけれど、実際は俺よりもカカシさんの方が背が高い。

「あ、お弁当!お弁当、どうしましょう!」
「もう出ますから、弁当はいいですよ。購買で買います」
ますます身体を小さくしてしょげかえるカカシさん。
「そんなに気にしないでください。ほら、顔をあげて、笑って見送ってくださいよ」
俺はカカシさんの顎に手を掛けて顔を上に向かせた。

恐る恐ると言った感じで伏せられていた睫毛が上がり、ほんの少し潤んでしまった瞳が開く。
ゾクリとするような美貌。
美人は三日で飽きるって言うのは嘘だな、と俺は思う。
顔のほとんどを隠していた胡散臭い上忍が、マスクを取ったら、こんなに美人だったなんて。
そこらの美人女優にも引けを取らないほどの別嬪で、世の女性が羨むほど色白で……
いつまでだって眺めていたい。
だけどそう言うわけにもいかず、
「行って来ます」
薄く開かれた唇に、俺はそっと唇を押し付けて、玄関に向かった。

カカシさんはパタパタと後からついて来る。
ドアを開けた俺に、恥ずかしそうに掛けられる声。
「い、行ってらっしゃい、あ…あなた」
「なるべく早く帰って来ますからね」
カカシさんに手を振り団地の廊下を歩き階段に向う。
突き当たりの階段を曲がる前に振り返れば、カカシさんはドアの前でずっと手を振り続けてくれていた。

そして3階の自宅から下まで降りて団地の外に出て、俺達の部屋を見上げると、ベランダにカカシさんの姿が見える。
俺の姿が見えなくなるまで手を振り見送ってくれるカカシさんに、俺は何度も何度も振り返り手を振り返しながら、今日もアカデミーに出勤する。


俺より年上で、俺より階級が上で高給取りで……
名門の出で……
絶世の美女も霞むほどの美貌の持ち主で……
頭脳明晰、里の誰より信頼も厚く……
そして、どう逆立ちしたって子どもを産める性じゃない、俺と同じ男で……
ご飯一つ満足に炊けないカカシさん……

俺の理想と何もかもが真逆の人……


これが俺の妻だった。








3


里に平和が戻り、アカデミーも再開され、俺も通常の教職に戻った。
そんなある日、俺に見合い話が舞い込んで来た。
俺みたいな野暮な男に浮いた話のあるはずはなく、見合いは願ったりかなったり。
俺が色々と世話になって来た信頼のおける大先輩のつてだったし、俺は二つ返事でオーケーをした。


そして見合いの席で見たものは……

「な、な、な、なんで、あんたがこんな所にいるんですかーーーー」
俺は目玉が飛び出るほど驚き、座卓の向うに座っている人物を指さし、思わず絶叫してしまった。
そこには、里の至宝とも謳われる天才忍者、はたけカカシその人が座っていた。
し、しかも、マスクもせずに、素顔を晒して!!
いつもの忍服を脱ぎ捨て、銀鼠色の着物の上に薄墨色の羽織を羽織った、やけに洒落た格好で。
俺だって、一張羅のスーツ姿だったけれど。
どこの役者だよと突っ込みたくなるほど、着物姿は似合っていた。

「こら、イルカ。お前、なんて失礼な」
見合いをセッティングしてくれた大先輩が俺を嗜める。
俺は二の句が告げずに口をパクパクさせていたが、ようやく我に返り、大先輩を廊下の隅に引っ張っていった。
「な、な、なんで、あの人がこんなところに?ま、まさか、見合い相手だって言うんじゃないでしょうね?!上忍ですよ?写輪眼ですよ?コピー忍者ですよ?はたけカカシですよ?男ですよ?!」
俺は興奮してまくしたてた。
それなのに先輩と来たら……
「お前、どんな相手でも喜んで、と言ったじゃないか。男は駄目だとは言わなかったじゃないか」
だ、だからって、普通、見合いと言えば相手は女性だと思うじゃないか。
確かに、昨今は木ノ葉も先進的になり同性結婚も認められて……
違う!!
そうじゃない!!
これはもう、男とか女とか、そう言うレベルの問題じゃないだろ?

それなのに、このまま席を蹴っては相手に恥をかかすことになると説得されて、俺は涙目になりながらも見合いの席に着いた。
お決まりの挨拶の後、「後は若い者同士で…」なんて、やはり見合いのお決まりの台詞を残して付添い人が退席し、二人きりになってしまった。

「まさか、イルカ先生が見合い相手だなんて驚きましたよ」
それは俺の台詞です!
「あ、あんた…じゃなくって、あなた、はたけ上忍、お、男と見合いだなんていいんですか!それより、何、見合いなんかしてるんですか!」
こんなスーパースターみたいな人が、見合いだなんて信じられなかった。
しかも相手は中忍の俺だぞ。
それに男もオーケーだなんて聞いたことないぞ。


「俺ね、温かい家庭を築くのが夢だったんですよ。
相手は幾つか年下で、背も俺よりは低くければいいかなーって。
それで、元気そうでしっかりもので、子ども好きの明るい人がいいなー、なんて。
容姿に特に拘りはなかったんですが、俺がこんなでしょー。
透けそうだとか覇気がないとか言われちゃうもんで、出来れば色の黒い人の方がいいかなー、なんて。
色の黒い人はそばかすがあったりしますよ、なんて言うもんだから、
俺はそばかすだって傷の一つや二つだって構わないって言ったんですよー。
背筋がピンと伸びていて、しゃきしゃきしていて、声が大きくて。
それからね、家柄なんかも全く気にしませんしねー。
大家族でもどんとこいですけど、縁者の無い人でも全くかまいません。
天涯孤独だとしても、お互い様ですからねー。
それから、どんな職業の人でも構わないしー。
あ、むしろ、同業者だったら理解あるんじゃないかなって。
同業ったって、階級に拘りもないし、薄給でも構わないし、仕事は続けて貰っても構わないし……って、
そしたら、ぴったりの人がいるって。
まさかイルカ先生だったとは。
もしかして、これは運命?」
と言って、はたけ上忍がぽっと頬を赤らめる。
この人、本当に、あのはたけカカシか?
可愛いじゃねーか……じゃなーい!!!

「お、俺は、男ですよ!それに、俺も欲しいのはお嫁さんであって、お、お婿さんじゃありません」
「俺はどっちでもいいですよー。イルカ先生さえよければ、俺は嫁に行ってもかまわないですー」
「か、かまわないじゃないでしょう!あんた、コピー忍者のはたけカカシが、何言ってるんです!!お、俺は、家庭を守ってくれるような奥さんを探しているんです。里を守ってくれるような人は、俺には勿体ないですよ。結構です!」
「俺、そろそろ、忍びも引退しようかなーなんて思っていたんですよ。何か他の商売でも始めようかなとか。でも、イルカ先生が家庭に入ってくれって言うなら、全然、かまいませんよー」
「いや、そうじゃなくって、あんた、だって……その…あの……引退ーーーーーー?」
引退するだって?
火影候補と言われ続けているこの人が?

「けっ、けっ、けっ、結婚して引退だってーーーーーーーー!!!!!」
「そう言うのなんて言うんでしたったけ?忍者でも寿退社って言うのかなぁ。いやぁ、なんか恥ずかしいですねぇ」
言うのかなぁじゃないですよ!!!
恥ずかしいなんてもんじゃないでしょう!!
あんたビンゴブックに載っている忍びなんですよ。
俺なんかと結婚して忍者引退したら、いったいビンゴブックになんて載るんです?
はたけカカシ、里の中忍と結婚により忍者稼業引退?
いわゆる寿退社?寿引退のなのかーーー!!!!
俺は混乱して、一人頭の中で突っ込みを入れ続けた。

しかしながら、そんな俺とは裏腹に……
「イルカ先生は驚くほど俺の好みにぴったりなんです。俺は、全くイルカ先生の好みじゃないですか?俺みたいなのは……駄目ですか?」
悲しげに伏せられる睫毛。
スッキリと通った鼻筋。
薄く綺麗な形の唇。
細い頤。
はあ…マスクの下はこんなに綺麗な顔が隠れていたんだ。








4


俺の夢は年下の俺よりも背の低い元気で可愛い奥さんと……
子どもが二人……男の子と女の子と……
奥さんは…奥さんは……
奥さんって言うからには、巨乳でなくともいいから、柔らかな胸と身体の可愛い女性で………


年下の可愛い女性だったはずの奥さんは…

俺の奥さんは……

里の至宝、写輪眼のカカシ……




俺は、お見合いの席で、はたけ上忍のうるうる潤む色違いの瞳にやられて、ついつい「結婚を前提にお付き合い」を了承してしまった。
あれが噂に聞く写輪眼の幻術だったのだろうか……
俺に掛けられた幻術は解けないどころか、日々、威力を増して行った。
俺は雪崩に巻き込まれて転がり続けて巨大化して行く雪だるまのように、ぐんぐんとカカシさんに惹かれて行った。
これが幻術なら、一生醒めなくてもいい。
これが夢ならば、死ぬまで目覚めたくない。
カカシさんと添い遂げたい!
そんな風に思うまで、時間はかからなかった。
そして、俺の一世一代のプロポーズに、カカシさんが、やはり目を潤ませてイエスの返事をくれたまでは良かったのだが……


「カカシさん、結婚式や披露宴はどうしましょうか?内輪だけで、それとも、ふたり……」
「あ、俺、ちゃんとした結婚式も盛大な披露宴もやりたいです!」
「は?」
俺は、男同士だし、形式にこだわらなくってもいいかなと思っていたのだが……
しなくてもいいし、むしろするなら二人きりでとか……
カカシさんも、エリート忍者であり超有名人なのに気取ったところもなく贅沢なところもないし、同じような考えかなと思っていたのに、カカシさんからは意外な返事が返って来た。
「俺、今まで人並みの生活やイベントって、全くしたことなかったんですよー。だから、俺になんかお見合いの話が来た時も驚いたけど、もう嬉しくて喜んでオーケーしたんです。なんでも一通り普通のことをやってみたいんですよねぇ」
ああ、そうだった。
この人は、たった五つで下忍になって以来、「普通」の暮らしにも「普通」の人であることからさえも縁遠かったんだ。
こうして俺と出会って、付き合いが始まって、二人で歩んで行く未来のことを相談するたびに、いつも本当に幸せそうに楽しそうにしてくれている。
ささやかな幸せ、人並みの幸せを、ずっと夢見ていたんだ。
夢だけじゃ終わらせないですよ、カカシさん!

「イ、イルカ先生は、あの、結婚式、恥ずかしいですか……男同士だから……」
俺が心の中で決意を新たに燃え上がっていた沈黙を誤解したカカシさんが、心配そうに質問してくる。
「まさか!俺の妻となってくれる世界一素晴らしい人を、里中に見せびらかしたいくらいですよ!」
「イルカ先生、嬉しい!」
目一杯否定して安心させてあげると、カカシさんは勢いよく俺に抱きついてきた。
俺も程良く筋肉の付いた魅惑的な身体を力いっぱい抱きしめ返して、結婚式の相談を続けた。

仲人は、見合い話を持って来てくれた俺の先輩に頼もうという話になったのだが、先輩には仲人なんて恐れ多いと尻込みされて断られてしまった。
カカシさんも仲人を頼めそうな夫妻に知り合いはいないと言うし、途方に暮れていると……


「イルカ、水臭いね!お前、結婚するんだって?仲人を探しているって言うじゃないか。あたしがやってあげよ」
「ご、五代目!」
受付所の廊下で、後ろから五代目に背中をどつかれた。
つ、綱手様が仲人だってぇ?
それこそ恐れ多い。
それに、五代目は……
「五代目は、どくし……」
「なんだって?」
「いえ、あの、五代目に仲人をして頂くなんて、勿体なくて……」
「ははは、イルカは本当に可愛いことを言うねぇ。遠慮することないよ。あたしたち二人で仲人を引き受けてやろうじゃないか。なぁ、自来也」
俺を通り越して話しかける五代目の視線につられて後ろを振り向けば、窓枠に自来也様が、いつもの下駄履きでしゃがんでらした。
「おぅおぅ、イルカもすみにおけんのぉ。いつの間に、そんな話になっておったのかのぉ。羨ましいのぉ。で、どんなおなごじゃ?こんなか?それともこんなかのぉ?」
自来也様は廊下に降りると、胸の前で手を山にしたり、何やら怪しげなポーズをしてみせる。
すかさず、五代目に蹴り飛ばされる。
だ、だけど、火影様と自来也様だぞ。
三忍と謳われたお二人が、俺達の仲人?
い、いいのか、そんなことがあっても……

「うぉっほん!で、イルカ、相手はどこの子なんだい?あたしの知っている子かい?」
五代目に質問され、自来也様はすぐに立ち直って隣に戻って来て、興味津々に耳を傾けている。
仲人を頼む頼まないはともかく、言ってもいいんだよなぁ、相手のこと。
カカシさんにプロポーズの返事は貰っているんだし。
「五代目も自来也様もよく御存知の……」


「あ、イルカ先生!」
俺が言い掛けた途端、廊下の角から現れたのは愛しのカカシさん。
何と言うタイミング!
やっぱり俺達は赤い絆で結ばれていますね!
カカシさんが俺を見つけて、嬉しそうに飛んで来る。
「あれぇ、どうしたんですか。五代目も自来也様もご一緒で」
「カカシさん、お二人が俺達の仲人をしてくださると仰るんですよ」
「ええ、ほんとですか!」
「なんだってぇ!!」
カカシさんと五代目の声が重なる。
自来也様は、顎が外れるんじゃないかと言うほど口を開いている。


それから、俺もカカシさんも、お二人には随分失礼なことも言われたような気もするけれど、なんとか俺達の仲を認めて……と言うより信じて頂けて、結婚も祝福して頂いた。
だが、流石にカカシさんの忍者寿退社は、なかなか許して貰えなかった。
確かに、まだまだ一流の忍びであるカカシさんの引退は里の損失だ。
コピーした千の技だって後世に残さなければならないだろう。
指導者としてだって優秀だ。
もっともっと後進の指導にだって当って貰いたいだろう。
御二方と俺との説得に、結局、カカシさんは主婦業優先ならば、と言うことで、完全引退は思いとどまった。
「お前、中忍の給料でやっていけるのかい?そこを助けるのが内助の功だよ。かしこい奥さんはパートをしてだな」
なんて言う、賢い奥様の「パートタイマー」と言う言葉が決め手になったらしい。
「パートだなんて、なんかすごーく庶民的で、人妻っぽいですね!普通っぽいですね!」
と言うことらしい。
「俺、頑張ってパートします!パートタイマー忍者になります!」
カカシさんの弾む笑顔と対照的な、自来也様と五代目の、どこか遠くを見詰めるような眼差しと表情が忘れられそうもない……


そして、俺達は、五代目と自来也様と言う仲人を立てて、正式に婚約をした。
あっと言う間に噂は広がり、結婚式の招待客は膨れ上がり……
アカデミーの講堂を借りたが、それでも入り切れぬ数の忍びが押し寄せ……
里中の忍びと言う忍びが、そして既に引退をした忍びまでもが俺達を祝福しに訪れ……
火影様の就任式もかくやと言う賑わいを見せ……
その日、里はまるでお祭り騒ぎのようだった。


「みんなに祝福されて嬉しいですぅ。イルカ先生、俺、人並みの幸せって言うのを味わってますね!」
ええ、カカシさん……幸せそうで何よりです。
だけど、人並みってなんでしょうね……
馬車に乗って里中をパレードするのは人並みの結婚式ですか……



next



途中がき
亡くなったキャラが出てきたりするので、このお話は最初はパラレルに分類していたのですが、
一応は原作ベースと言う事で、普通お話に分類し直しました。
木ノ葉も、男同士のお見合い結婚などが普通になったちょっと未来のお話ってことで……
男同士の結婚式で、二人が何をお召しになったのかは、ご想像にお任せします(笑)
優秀な上忍であるカカシさんがお寝坊さんだとか、家事能力に欠けるとか疑わしいんですが、
お話の都合上、こう言うカカシさんも可愛いなーと(笑)

恋愛ではなくて、お見合いから始まるイルカカ、
団地妻に収まるカカシさんと言うシチュに萌えて書き始めたんですが、特に続きは考えていなくて…
何か面白いエピソードでも思いついたら、ぼちぼちと……
と言い続けて、なんと二年近く経ってから続きました!


1〜4話 2009/07/01(1〜3)、07/13





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