イルカカ   奥さまは写輪眼






団地妻カカシさん

   




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12


翌日のアカデミーの帰り道、俺の足取りは珍しく重かった。
足取りだけではなく、今日は一日、気分が重かった。
朝、カカシさんが玄関に置かれたままだった壺を挟んで見送ってくれる際に、
「返品して来ますね」と言った寂しそうな顔が一日中、頭を離れなかったから……



「イルカ先生、こんばんは。お疲れ様です」
とぼとぼと歩く俺に突然、声が掛けられた。
が、いきなり暗部が現れるのも慣れっこになってしまって驚くことはなかった。
「こんばんは、お疲れ様です」
俺もいつものように同様の挨拶を返したが、覇気の無い声に気付いたのだろうか。
「イルカ先生、すみません。やはりあの壺は邪魔でしたよね」
と何故か暗部が謝って来た。

「なぜあなたが謝るんです?それより壺のことをご存じで?」
「あの壺を先生のお宅に運んだのも運び出したのも自分なんです。自分もあの壺はちょっとどうかと思ったので、カカシ先輩にも言ったんですが……」
ああ、あの人は、こんなことにまで後輩を使っているんだな、まったく困った人だ。
「すみません、御足労おかけしました」
とりあえず俺も謝った。

「カカシ先輩は普段はまじないとかジンクスとかお守りとかそう言うものには全く頓着しないリアリストなんですが、イルカ先生のことになると違いますね」
「はあ……」
「あの壺、色んな種類があったんですけど。金運の壺とか恋愛成就の壺とか」
「ああ、幸福の壺とか言っていましたね」
そう、言うに事欠いて、幸福の壺だと。
その名前の所為で、俺はいつにも増して狭量だったのかもしれない。
なんだよ、幸福の壺って。
俺たちは今、幸せじゃないのかよって、地味にいらついたんだ。

「幸福の壺と言うのはシリーズ全体の名前みたいで、あれは「無事カエルの壺」と言うものらしいですよ」
「無事、帰るの壺ですか?」
「ええ、カエルの絵が描いてあったでしょう?駄洒落ですよね。あれを玄関に置いておくと待ち人が必ず帰るって言う霊験あらたかな有り難い壺だと言う店主の説明に、カカシ先輩は惹かれてしまって」
暗部は面の奥でおかしそうに笑った。
カエル?
そんな絵が描いてあったか?
確かに、何やら下手くそな動物の絵が描かれていだが……
無事カエルだって?
俺はそんな名前の壺だとは知らず、絵柄なんて良く見もしなかった。

「カカシ先輩は『イルカ先生はいつでも俺を信じて待っていてくれるから、俺はどんなことをしても絶対にあの家に帰るんだーよ」って惚気ていました」
あの人は、そんなことまで後輩に……な、なんて、恥ずかしい人だ。
「で、先輩は『この壺があったら鬼に金棒だーね』って、あんまり嬉しそうにしていたもので……」
「………」
「カカシ先輩、趣味は悪いですがイルカ先生のことになると必死なんです。あまりその……責めないでやってください。すみません、出過ぎた口を。失礼します!」
暗部は直角に身体を折って頭を下げると、かき消えた。


カカシさんは、そんなこと一言も言わなかったじゃないか。
ただ「幸福の壺」だなんて胡散臭い名前を言っただけで。
暗部の後輩には、あんな惚気まで吐いている癖に。
「無事帰るの壺」と言う名前を言ってくれれば……
いや、俺が端から否定的な物言いをして、カカシさんに言わせなかったんだ。
俺が一度でもまともに壺に目をやっていれば、カエルに気がついたかもしれない。
そしてカエルですねとカカシさんに言えば、カカシさんだって……
全ては後の祭りだ。
だって俺は、壺を良く見もしなかった。

カエルの絵がついているから「無事帰るの壺」だって?
ばかばかしい。
一流の忍びが……
里の至宝が、壺頼みだって?
どんなことをしても帰って来るためだって?
俺たちの家に……
俺の元へ帰るためのラッキーアイテムだって?
そんな願いを込めて、あんなふざけた壺に大金をはたいたんだって?
ばかばかしい……
ばかばかしくって、涙が出る。
チクショー。
商店街を照らす夕日がやけに眩しい所為だ。
俺はぐっと奥歯を噛みしめると、自宅とは反対の方向へ踵を返して駆け出した。








13


「ただいま、カカシさん」
「お帰りなさい、イルカ先生」
俺の帰りはいつもより少し遅くなったが、カカシさんはいつも通り、にこにこと出迎えてくれた。
玄関にはやはり壺の姿は無かった。
「今日は新鮮な秋刀魚が手に入ったんですよー」
カカシさんは壺のことには触れて来ず、普段と変わらぬ態度で今晩の献立の説明をしながら台所に戻ろうとする。
そのカカシさんの腕を後ろから掴んだ。

「どうしました?」
「お土産です」
カカシさんがきょとんとした顔で振り返った。
掴んだ手に、俺は寄り道をして買って来た土産を押し付けた。
カカシさんの目が見開かれる。
「イルカ先生、これ……」
「すみません。カカシさんが折角、買ってくれた壺を返品させてしまって。あの壺はちょっと我が家には大き過ぎました。これで勘弁してください」
俺はカカシさんに向かって勢い良く頭を下げた。
驚きに目を瞠っていたカカシさんは、手の中のカエルの置物と俺の顔を交互に見詰めて、まるで泣き出すんじゃないかと思うようにくしゃりと顔を歪ませた。


俺は暗部が消えた後、木ノ葉の街の中、あの壺の代わりとなるようなカカシさんへの土産を探して走り回った。
先ずは古道具屋に飛び込んだが、大福帳と徳利を下げた狸だとか、招き猫だとか、亀の剥製だとか、そんなものしかなかった。
女の子が好むような雑貨屋も覗いてみた。
当たり前だが、そこにも俺の探し物はなかった。
あちこち飛び回り街外れのまでやってきた時、石屋の前に石燈篭と並んで、石で出来た大きな亀が置いてあるのが目に入った。
そうだ!
庭や玄関先に置いてあることがあるじゃないか!

「カエルはありませんか!」
俺は、そう叫びながら店の中に飛び込んだ。
むっつりとした顔の石屋の爺さんが黙って指差した場所には、一抱えもありそうなものから、水槽の中にでも飾るようなものまで、大小様々な石のカエルが並んでいた。
俺はその中から、掌に乗る大きさの御影石で出来たカエルを買った。
「これは縁起ものだよ、無事カエルって言ってな。忍者のあんちゃんにはぴったりだ。大事にしてやってくんな」
やはり「縁起もの」だと言う石屋の爺さんの言葉を背に俺は家路を急いだのだった。



「ありがとうイルカ先生。大事にします」
カカシさんは掌の中にカエルの置物をぎゅっと握りしめて、大切そうに胸に押し当てた。
そんなカカシさんの姿を見ていたら、俺の顔も歪みそうになる。
顔をぐっと天井に向ければ、今度は玄関を照らすオレンジ色の電球が目に染みた。
ああ、我が家の灯りは明るくって暖かい。

「カカシさん、これはここに置いておきましょう」
置物を握り締めたカカシさんの手を掴んで、玄関に作りつけの小さな下駄箱の上に誘導し、手を開かせた。
コトンと小さな音をさせてカエルは下駄箱の上に乗った。
「いつもこいつが、カカシさんの帰りを……俺たちの帰りを待っていてくれますよ」
「はい」
空いたカカシさんの手を握り締めると、カカシさんも握り返してくれた。

カカシさんの指先は、いつもほんの少しひんやりとしている。
このひんやりとした指の先まで俺のものだ。
俺だけが、この白く美しい指に触れることが出来るんだ。
俺たちは指を絡めて台所に向かった。

今夜の新鮮な秋刀魚は最高に美味しかった。








14


ある日、アカデミーの演習のための下見に出掛けた俺は直帰したため、いつもより少し早く団地についた。
流石にまだカカシさんも帰っていないだろう。
今日は俺が夕飯の支度をしてカカシさんを迎えてやるか。
一人先に帰宅するのは、カカシさんと結婚してから、寂しさを覚えるようになってしまったが、玄関にいるカエルが俺の帰りを待っていてくれると思うと、ほんの少し寂しさは和らぐような気がした。

あの日から、カカシさんはあのカエルに向かって、行って来ますだの、ただいまだの挨拶をしている。
それを思い出して顔がにやける。
本当にそんな時のカカシさんは可愛い。
あんな可愛い姿は誰にも見せたくない。
俺だけの特権だ。


いつもの商店街を通らず、団地のベランダ側に直接戻って来た俺は、ふとスイートホームのある三階を見上げた。
「?」
その瞬間、何者かがベランダから飛び出して来た気配を感じた。
それは本当に一瞬で、目で追うことも出来なかったが、確かに何者かが瞬身で飛び去った気配だった。
カカシさんではない。
それだけは断言出来る。
もしかして先に帰宅していたカカシさんに襲撃者が?
カカシさんはビンゴブックに載るほどの忍者だ。
カカシさんの強さはわかっている。
わかっているからこそ、これはただごとではない。
カカシさんが敵を仕留め損ねたとして、相手を追って出て来ないなんてことが……
カカシさんの身に何かあったらと思うと恐怖に震え出しそうになる。
そんな己を叱咤して、俺は一気に三階のベランダに飛んだ。

「カカシさん!」
開いていた窓から部屋の中に飛び込んだ。
「イルカ先生!どうしたんですか?窓から帰って来るなんて」
ベストを脱いだ忍服のカカシさんが、台所から出て来た。
カカシさんも、今帰って来たばかりらしく、手にはサクラ達に貰ったピンクのふりふりのエプロンを持っている。
「今、ベランダから何者かが飛び出て来た所を目撃しました」
「えっ?」
カカシさんは心底驚いた顔をした。

「カカシさんも気がつかなかったんですか?」
「イルカ先生の気の所為じゃないんですか?俺も、たった今、帰って来た所ですが、誰もいませんでしたよ」
「いえ一瞬でしたが、この部屋から飛び出て瞬身で消える気配を感じました」
カカシさんの顔色は心なしか蒼褪めている。
「カカシさん、何か仕掛けられているかも」
「だって、そんな……きっと勘違いですよ」
「俺にだって気配くらいは読めます。カカシさんと入れ替わりに飛び出したんでしょう。この部屋の中に侵入していた時は完全に気配を絶っていたんでしょう。瞬身の瞬間にぼろを出したのかもしれません」
カカシさんは、自分には察せられなかった侵入者の存在を疑っている様だが、何かあってからでは遅い。
俺たちはその後、何か仕掛けられていないか、何か盗まれてはいないか、夕飯もそっちのけで徹底的に家の中を探ったが、何も発見されなかった。

「ごめんなさい、イルカ先生」
「何を謝るんです?カカシさんが無事でよかった。もう少しこの家の結界を強めなければ駄目ですね」
この団地は忍者の家族向けなので、団地の敷地内に結界は敷かれていたし、各部屋ごとにも各自結界を張っているのだが、用心に用心を重ねるに越したことは無い。
カカシさんと結婚すると言うことは、こう言うことでもあったんだ。
俺は平和ボケしていたが、カカシさんは一流の忍者だ。
里に居ても、いつ何時、狙われてもおかしくない存在だ。



そんなことがあってから、俺は時折り、帰宅の経路を変えベランダ方向に出る道から帰ることにした。
そして、そんなある日、今度はベランダから飛び去っていく暗部の姿をはっきりと目撃した。
顔見知りと言うか、何度か商店街で立ち話をしたことのある暗部だったと思う。
何か任務の関係で、カカシさんの所に来たのだろうか。
俺は普段通りに階段を使い玄関から帰宅した。


「ただいま、カカシさん」
「お帰りなさい、イルカ先生」
「今、誰かお見えになっていましたか?」
「いえ、誰も来ていませんよ」
何気なく聞いたが、カカシさんから返って来たのは否定の言葉だった。
あまりに自然に否定されたものだから、俺は言葉に詰まってしまった。
戸惑いが顔に出たのだろう。
「あの、何か?」
カカシさんはそう不思議そうに問いかけて来るが、それもごく自然なものだった。
ああ、そうか、暗部が出入りしていたと言うことは、家族にも口外出来ぬような任務と言うわけなんだろう。
「いえ、なんでもないです。それより今晩のおかずはなんですか?腹が減りました」
俺は取り繕うように話題を変えた。

忍び同士の夫婦なら、こう言うこともあるだろう。
俺は、自分を納得させるように思いを飲み込んだ。
今夜の秋刀魚に添えられた大根おろしは、やけに苦かった。








15


「こんばんは、イルカ先生」
既に馴染みになった感のある丑の面の暗部が、今日も商店街に現れた。
「ああ、こんばんは。すみません、今日はちょっと急いでいますので!」
「あっ、イルカ先生!ちょ、ちょっと待ってください」
「すみません、アイスクリームを貰ったんですよ。早く帰って冷凍庫に入れないと」
残業で残る同僚が買って来たアイスを、カカシさんの分もと俺は貰って来ていた。
折角だから溶けぬように早く帰りたいと焦っていたが、丑の面をした暗部は、強硬に俺を引き留めようとする。

「あの、本当に申し訳ないんですが、どうしても、今、聞いて頂きたいことが」
「歩きながらでは駄目ですか?」
「あの、その、少しお時間を頂きたいと……少しでいいんです。その……」
暗部の彼らは、結構、話好きが多いようで、彼らに話し掛けられると長い立ち話になってしまうこともしばしばあり、俺は随分、足止めを食らった事があるが、それでも彼らは一線を引くようにいつでも礼儀正しかった。
しかし今日の彼は執拗だった。

「どうしたんですか?改まって俺に聞きたいことなんて、カカシさんの事でしょう?」
俺は歩を緩めずに聞いた。
「いえ、そうじゃないんです!イルカ先生にお聞きしたいことが……。お願いします!」
丑の面は、頑として俺にも立ち止まらせようと言う意志でもって立ち止まり、頭を下げた。
そのあまりに必死な様子に、俺も足を止めざるを得なかった。


「俺に聞きたいことですか?どんなことでしょうか?」
「あのっ…あのっ……そのですねっ……えっと……えっと……」
歯切れ悪くもじもじと言葉を探っている。
俺は辛抱強く待った。
「カ、カカシ先輩との初デートはどこに行きましたか?!」
しばらくして彼はヤケクソのように怒鳴った。
俺は唖然とした。
急いでいる人間を捕まえて、聞くようなことか?

「あっ、違うんですっ、そうじゃなっくて、自分も、その……、ああ、そうだ。自分も、その初デートにですね……えっと……あのっ……」
しどろもどろになって言い訳をする彼を見ていたら、なんとなく飲み込めて来た。
俺は職業柄、言葉の足らない子どもの話を辛抱強く聞き、時には、言いたいのに上手く言葉に出来ないでいる言葉を想像を働かせて察するスペシャリストだ……と一応自負している。
「もしかして、あなたが初デートをなさると言う話ですか?」
彼は我が意を得たりと言わんばかりに大きく首を縦に振った。

「そ、そ、そうなんです。そ、そ、そ、尊敬する先輩とイルカ先生が、どちらへ行ったのか参考にしたいと思いまして」
意中の相手を明日デートに誘うのだろうか。
それとも、これから誘いに行くのだろうか。
「俺たちのデートが参考になるかはわかりませんが……」
俺はアイスのことも忘れて、彼の役に立ってやりたいと思いはしたが……
そう、多分、全く参考にならないだろう。


「俺たちの初デートは一楽でした」
今度は暗部がぽかんとする番だったろう。
面で表情は見えないが、絶句した気配が伝わって来た。
だって仕方ないだろう。
カカシさんの綺麗な素顔と写輪眼にやられて、ともかくお付き合いをスタートさせたが、その頃の俺には、本気でカカシさんを嫁に貰えることがあろうとは思えなかったんだから。
同僚……いや、上司を誘って飲みに行く感覚でカカシさんを誘い、一楽でラーメンを食べたのが初デートと言えばデートだった。

唖然としていた彼が我に返ったのか、面をしたままの顔と言うか視線がふらりとどこかへ動いた。
そして、俺の正面に戻って来た。
「一楽ですね。大変、参考になりました。ありがとうございました」
そして馬鹿丁寧に頭を下げた。
「ちょっ、ちょっと、参考になんかしないでくださいね!初デートでラーメン屋はどうかと思いますよ!」
頭を上げると同時にかき消える暗部に、俺は慌てて怒鳴ったが、聞こえていればいいが……








16


「ただいま、カカシさん」
「おかえりなさい、イルカ先生」
「これ帰りに貰ったアイスなんですが、ちょっと溶けてしまって……」
俺は先程の暗部のとのやり取りをカカシさんに話して聞かせた。
「もう、あいつったら、折角のアイスを!今度、とっちめておきますね!」
カカシさんはぷんぷんと憤慨している。
優しげな顔をしてぷんぷん怒る姿もまた可愛いんだよな〜。
そんな姿を見られただけでも、アイスが溶けてしまった事なんか問題じゃなく思えるから不思議だ。
「アイスは冷凍庫に入れておけばまた固まりますよ。見た目は悪いかもしれませんが」
味も少しは落ちるかもしれないが、まあ、大丈夫だろう。


「それより、俺たちの事を参考にしないように、言っておいてくださいよ」
「えっ?」
ああ、顔に疑問符を浮かべて小首を傾げるカカシさんのキュートなことよ!
「だって、俺たちの初デートは一楽でしたよ。参考にしちゃ拙いでしょう」
「ええーーーっ!?一楽だと、拙いんですか?」
カカシさんは信じられないと言った風に目を見開き、拳を口元に当てている。
そんなに驚くなんて、俺の方がびっくりですよ。
それにカカシさんは「初デート」とか記念日なんて物はそんなに気にしないのかと思っていた。

「一楽でデートって、あれ、普通じゃなかったんですか?」
「そうですね……俺、気の効いた店なんて知らないもので、初デートがラーメン屋だなんて、すみませんでした」
「でも俺、イルカ先生に誘って頂けて凄く嬉しかったし、一緒にラーメン食べるなんて、凄く楽しかったです」
ああ、カカシさんがそんな風に思っていてくれたのなら、もっと思い出に残るような洒落た場所に誘うんだった!
過去の俺をぶん殴ってやりたい。

「結婚記念日には、どこか素敵なレストランでデートしましょう!」
そうだ、記念日には記念日に相応しい店を探して、きちんと予約して食事に誘おう。
「俺はイルカ先生と一緒ならどこでも嬉しいです」
カカシさんが頬を染めて恥ずかしそうに呟いた。
なんて奥ゆかしい人なんだ。
カカシさんは本当に素晴らしい人だ!
素晴らし過ぎて俺には勿体ないような人だ。
そう、だから俺たちのことなんて、参考にはならないだろう。


「初デートはともかく、俺たちのことは参考にならないってちゃんと言っておいてくださいね」
「参考になりませんか……?」
俺はカカシさんに念を押したが、奥ゆかしいカカシさんにはやはり通じていないようだった。
「だって俺たちはイレギュラーなカップルですしね。参考にしようったって無理でしょう」
「イレギュラーですか……?」
「そうですよ、カカシさんのような里の至宝とまで呼び称される忍者は滅多にいないでしょう。それが俺みたいな一介の中忍の奥さんになってくれるなんて、ミラクルですよ!」
「ミラクルですか……?」
「何もかもカカシさんと俺では違い過ぎますからね」
「何もかも……?それって俺がイレギュラーだって事ですよね?」
「カカシさんと俺では月とすっぽんですよ」
「イルカ先生はすっぽんなんかじゃありません!イルカ先生は、イルカです!!」
「はは、ものの例えですよ、確かに俺はイルカですが」

居間にはカカシさんの買って来た海と月とイルカの絵が相変わらず飾ってある。
俺はその月の部分をそっと指で撫でた。
「カカシさんは、やっぱり月ですよねぇ」
「俺も、月なんかじゃありません!俺の存在がイレギュラーだって言うのなら、俺ももっともっと頑張って普通の奥さんになります!」
おかしなことを言うカカシさんに俺はおかしくなって笑い出した。

「カカシさんは月のように綺麗だって褒めているんですよ?俺は月のように容姿も中身も綺麗なカカシさん、あなたが大好きですよ。俺の自慢の奥さんです」
「イルカ先生だって俺の自慢の夫です!」
むくれた様子で声を大きくするカカシさんを、俺は笑いながら抱き締めた。
「嬉しいです、カカシさん。俺もカカシさんに相応しい夫になれるよう努力します」
そうだ、結婚したからって、安心してはいられない。
だってカカシさんは誰からも好かれるモテモテな人だ。
努力を怠る人間ではカカシさんに相応しくないだろう。
俺も出来る限り頑張ろう。
俺には勿体ないようなこの素晴らしい人を、いつまでもいつまでもこの腕に抱いて、幸せにするために!








17


「こんばんは、イルカ先生」
「こんばんは。すみません、今日はちょっと急いでいますので!」
「イルカ先生!ちょっと待ってください!!」
またある日の帰り道、俺はまた暗部に引き留められた。
この前の暗部とは違う、寅の面をした暗部だった。
彼とも何度か立ち話をしたことがある。

俺はまたもやアイスクリームを持っていた。
先日のアイスクリームは、帰りに知り合いに引き留められて少し溶けてしまったと愚痴っているのを聞いていた他の同僚が、今日もアイスクリームを買ってきて、カカシさんの分もと持たせてくれたのだった。
あいつらは、俺にと言うよりも、カカシさんに食べて貰いたくて買って来てくれるんだろうから、今度こそ、俺も溶ける前に持って帰りたい。

「すっ」
「すみません!イルカ先生!」
俺が、「すみません、急ぎますから」と言う前に、暗部の彼に先を越されてしまった。
すみませんは俺の台詞です。
気を取り直して、「本当に申し訳ないです!」と俺は彼を振り切って歩を進めようと思ったのだが。
「イルカ先生、お願いです!そっ、そっ、相談に乗ってください!!」
寅の面の彼は、素早く俺の前に回り込み、頭を下げていた。
仕方なく、俺も立ち止まった。
カカシさんから伝わっていないのだろうか。
カカシさんはぷんすか怒っていたが、彼らも悪気があるわけではないだろう。
ただ、急いでいる時は、無理に引き留めないで欲しいとだけでも、伝えて欲しいとお願いしていたのだが……
溜め息が出る。

「相談ですか?カカシさんのことでしょうか?」
「いえ、あの、そう言うわけでは……あの…その、個人的な……」
今度の彼も歯切れ悪い。
しかもカカシさん絡みではないと来た。
一体、なんなんだ?
俺はいつ暗部の相談窓口になったんだ?

「どのような相談でしょうか?俺があなたの相談に乗れるとは思えませんが……」
「いえ、その、あの、えーと、ぜ、是非、イルカ先生にお伺いしたいと……」
「俺にですか?」
彼らはカカシさんに倣って俺のことをイルカ先生、イルカ先生と呼んでくれるが、俺は彼らの先生になった覚えもないぞ。
「はい…えっと、えっと……その、あのですね……」
先日の丑の面の暗部にまして、寅の面の彼ももじもじと中々要領を得ない。
これだけ言いにくそうな所を見ると、またもや恋愛関係なのだろうか?
多分、恋愛関係の相談と言うのは、口にし難いもののひとつだろう。
俺は断じて彼らの先生ではないが、ついつい助け船を出してしまった。

「もしかして、恋愛相談ですか?」
「は、はい!そうなんです!!」
もじもじと俯いていた面が、跳ねるように上げられた。
「恋愛相談でしたら、もっと向いている方が……。俺は、そういう方面はからきし……」
「いえ、イルカ先生のお話をお伺いしたいんです!」
俺の話を聞いたって本当に参考になることは無いと思う。
カカシさんにも言ったが、どう考えたって俺たちカップルは平均的なカップルじゃないだろう?
俺たちの恋愛話が参考にならないってことも、カカシさんが伝えていてくれているはずだが……
彼には伝わっていなかったのだろうか。

「さ、差支えなかったら、お教え願いたいのですが、プ、プロポーズはですね」
「プロポーズですか」
「プロポーズはどちらがなさったんですか」
「俺がしました」
隠しても仕方ないことだから、俺は即答した。
そう……一楽でデートした後、俺は飾らず気さくなカカシさんにみるみる惹かれて行った。
添い遂げるはこの人しかいないと思うのに時間は掛からなかった。
俺はあの時、本当にストレートに「結婚してください」と申し込んだんだった。

「すぐにお返事は頂けたんでしょうか?」
「その場でイエスの返事を貰いました」
俺は、真っ赤になって「結婚してください」と頭を下げた。
小さな声で「はい」とカカシさんが返事をしてくれるまでの短い時間が、あの時は永遠に思えたっけ。
色好い返事をもらえた喜びにぱっと顔を上げれば、真っ赤になっているカカシさんの顔があった。
あの顔も本当に可愛かった!
俺の頭上では天使がラッパを吹き鳴らし、俺は天にも昇る気持ちでカカシさんに抱きついた。

「そうですか、カカシ先輩はすぐに返事をくださったんですね」
寅の面は、そう言って感慨深そうに何度か頷いた。
「ありがとうございました。大変、参考になりました!お引き留めして、申し訳ありませんでした!」
晴れ晴れとした様子で礼を言うと、風のように消えた。


なんだったんだ、一体……
今の話のどこが参考になった?
俺はアイスクリームの袋を片手に、呆然と立ち尽くした。
今日の相談も、アイスクリームを持っていると断りを入れている人間を捕まえてするようなことだったろうか?

何かおかしい。
暗部は、確かに必死な様子を見せていたが、何かが不自然だ。
俺はこの時、初めて暗部を疑った。








18


彼らは現役暗部だ。
そして、カカシさんの後輩であり、カカシさんのことをこよなく愛し尊敬し心から敬っている。
それは見ていて崇拝に近かった。
そんなにも彼らを惹きつけて止まないカカシさんの実力、人徳は本当に群を抜いて素晴らしいと言うことだ。
そんな彼らだから、カカシさんを独占し夫と言う立場に転がり出た俺に敵対心を抱いてもおかしくは無いと思っていたのに、流石彼らも人徳者であり、先輩の夫として俺を立ててくれているようだった。
そして彼らはあまりにもフレンドリーに接して来たものだから、俺も彼らに打ち解けるのに時間は掛からなかった。

だが、幾らカカシさんフリークの彼らとて、新婚である先輩の日常が聞きたいがためだけに、こう度々アカデミー帰りの俺の前に現れるだろうか。
その内、飽きるだろうとも考えていたし、野次馬にもほどがあると思っていたが、彼らは次々に現れた。
酔狂にも程があると思っていたが、これがただの酔狂ではなかったのなら?

彼らは、ことカカシさんに絡むことならば、どんな命令でもどんな頼みでも引き受けるだろう。
現に、海の絵を運んだのも、鍋を運んだのも、マッサージチェアを運んだのも、非番の彼らだと言うではないか。
そんな彼らが、カカシさんへの土産のアイスクリームを持っている俺を強硬に引き留めた。
そして、カカシさんは後で彼らを「とっちめてやりますね!」と言っていたはずだ。
俺は「お手柔らかに」と釘を差しておいたが、カカシさんも彼らに釘を刺さないはずはない。
暗部の彼らの様子を見るにつけ、彼らはカカシ先輩の命令には絶対服従だろう。
それを敢えて無視したのか?
つい先日に引き続き今日もとなると……


そうだ。
彼らはカカシさんの利益になるようにしか動かない。
カカシさんの夫として俺にも一応の敬意を払ってくれてはいるようだが、彼らの中で神に等しい存在はカカシさんただ一人。
彼らの目的はなんだ?
カカシさんの日常の情報が欲しいだけではなかったとすると……
俺に話しかけて何の得がある?
俺の情報なんかカカシさんが必要とするわけはない。
直接、俺に聞けばいいんだから。

だったら、俺に話しかける目的はなんだ?
俺を足止めしてまで聞きたいこと?
足止め……もしかしたら、俺を足止めすることが目的そのものだったのか?
俺の足止めをして、何の得がある?
彼らにではなく、カカシさんに何かの得があると言うことだろうか……
カカシさんは、このことを知っているのだろうか……



俺は頭を悩ませながら、家に帰った。
もうアイスクリームは溶けてしまったから、急ぐ必要もなかった。

「ただいま、カカシさん」
「今日も俺の方が早かったですね。お帰りなさい、イルカ先生」
既にカカシさんは帰宅していた。
やはり帰って来たばかりのようだったが、いつものように俺の顔を見て凄く嬉しそうに笑って出迎えてくれた。

「カカシさん。これ、溶けてしまったアイスです」
「溶けてしまったアイスですか?」
「そうなんですよ、今日は団子屋のおばあちゃんに捕まってしまいまして。アイスの土産があるから団子は要らないと言うのに、あのおばあちゃんは耳が遠くて困ったものです」
「イルカ先生はお優しいから、おばあちゃんもいい話し相手だと思っているんですね。また冷凍庫に入れておいたら食べられますね」
俺の嘘に気付いたのか気付かないのか、カカシさんはにこにこと笑って、俺からアイスクリームを受け取ると冷凍庫を開けてしまった。
冷凍庫から流れ出た冷気が思いの外冷たくて、俺は僅かに身震いをした。








19


今日はアカデミーの後、受け付けの仕事があった。
これはアカデミーの教師に定期的に回って来るもので、俺のスケジュールはカカシさんも把握済みだった。
21時、定刻通りに夜勤の者と受け付けを交代し、俺は帰路についた。

ふと、子どもたちが、コンビニの新しいアイスが美味いと話していたのを思い出した。
そうだ、溶けたアイスばかりでは申し訳ないから、今日は俺がアイスを買って帰ろう。
いつもの帰り道から反れてコンビニに向かった。

子どもたちの言っていたのはこれか。
その噂の新製品とやらは、袋にマンガのキャラクターの描かれたアイスキャンディーだった。
たまにはこんなのも可愛いくっていいだろう。
カカシさんは、アカデミーの子どもたちの話をしてやると物凄く楽しそうに聞いてくれるから、いい話のタネになる。
カカシさんの嬉しそうな顔を思い浮かべると、俺の心も弾む。

俺は今度こそアイスを溶かさず持ち帰ろうと、瞬身の術で帰ることにした。
実は、普段の生活で、まして街中では、なるべく術は使うなと生徒たちに指導している手前、俺も滅多に忍術を使った生活はしなかったのだが、今日は特別だ。
特別だけど、子どもたちに見つかっては申し開きが立たぬから、俺は誰にも気づかれぬように慎重に瞬身を重ねて団地に辿り着いた。


見上げたベランダの窓は暗かった。
カカシさんはまだ帰っていない。
俺は、気配を殺したままの勢いで三階のベランダに飛んだ。
そう、他意は全くなかった。
ただ、今日こそは、アイスクリームを溶かしたくなかっただけだ。

俺がベランダに降り立った瞬間、どちらが先に気配に気づいたのだろう。
俺は家の中に潜む微かな気配を感じ、家の中にいるだろう侵入者も瞬時に俺の気配を感じたのだろう。
家の中から、ピンと張り詰めた空気が感じられた。
この前の奴かも知れない。
誰何を問うては逃げられる。
俺は鞄とコンビニ袋をそっと床に置き、こう言う事態を想定して貼り巡らせていた術を発動させた。
これで相手は、俺が死ぬか術を解かない限りは部屋から出られないはずだ。


「誰だ!」
俺は侵入者に問い掛けた。
すると室内から感じられていた張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
「イルカ先生、申し訳ありません」
聞き覚えのある声だった。
窓から部屋の中に入ると、暗がりに猪の面が浮かびあがっていた。

「俺の家で何をしているんです」
カカシさんの気配は無かった。
俺は壁伝いに部屋の奥に進み電気をつけると、猪の面をした暗部は、台所の前で何故か木ノ葉マートの白い買い物袋を手に、所在無げに立っていた。
「申し訳ありません!」
猪の面はガバリと頭を下げた。
「カカシさんに何か頼まれましたか?」
「申し訳ありません。カカシ先輩には関係ありません」
「カカシさんに関係ないのなら、なぜあなたは俺の家に居るんです?不法侵入と言うことになりますよ」
どう考えたって、カカシさんに関係ないわけはないだろう。
ここは俺の家であり、カカシさんの家であり、二人の家だ。


「カカシさんもそろそろ帰って来ますね。カカシさんにも聞いてみましょう」
「すみません。自分が独断で侵入しました。カカシ先輩には一切、関係がありません」
彼は、ひたすら頭を下げ続ける。
「留守中に先輩の家に上がり込んでおいて、本当にカカシさんの預かり知らぬことだと言うのですか?俺を足止めすることも?」
俺はかまを掛けてみた。
「そ、それは……それも、自分が勝手にさせて頂いたことです。カカシ先輩には関係ありません」
「勝手にって……俺を足止めして何の得があると言うんです。アイスクリームは溶けるし……時と場合を考慮して頂きたいと伝えて頂くようカカシさんにお願いしていたんですが、カカシさんから聞きませんでしたか?そんなにしてまで何故俺に話し掛け、帰宅の邪魔をするんです?」
「申し訳ありませんでした。自分たちが、カカシ先輩に喜んで頂こうと独断でしたことです。本当に申し訳ありません」
「なぜ、俺を足止めしてカカシさんが喜ぶんです?」
やはり偶然などではなかったのか。
だが、早く帰そうとするならわかるのだが、なぜ?
俺は困惑するばかりだった。

「それは……カカシ先輩が、イルカ先生より一分でも一秒でも早く家に帰り着きたいと仰っていたから……」
「はぁ?それが、なんだって……」
呆然とする俺に、猪の面の暗部のした説明は、更に唖然とするようなものだった。








20


俺の帰宅時間はほぼ決まっている。
受け付けで遅くなる日、アカデミーの会議で遅くなる日など、予めカカシさんには伝えてある。
カカシさんの任務には定刻と言う物はないが、俺の帰宅時間とだいたい重なるような事もあるだろう。
俺はカカシさんに、くれぐれも無理をしないように、無理をして早く帰宅しようなんて考えないようにと、口が酸っぱくなるほど言い聞かせていた。
カカシさんに限って、最後の最後で気を抜いて、取り返しのつかぬ失敗をするような事は無いと思うが、得てして人と言うものは、これで終わりだとか気を抜いた瞬間が一番危ないんだ。
俺は、俺のためにカカシさんに危険な目に遭って欲しくない。
何時になったってかまわない。
ただ無事な姿で帰って来てくれればそれでいい。


暗部が同行していたある任務の帰りの道中のことだったらしい。
「ああ、そろそろイルカ先生が帰って来る時間だーね。あと五分、あと五分、俺が先につけば、イルカ先生にお帰りなさいって言えたのに!」
と、カカシさんが悔しそうに呟いたのを暗部の彼らは聞き逃さなかったらしい。

暗部の連絡網が瞬く間に回り、あっという間にその作戦は練られたと言う。
アカデミー帰りの俺に一番近い場所にいた者が、俺を見つけ話し掛ける。
そして、足止めしている間に、カカシさんが団地に帰宅する。
カカシさんが団地に到着した合図は、彼ら独特の手段で俺と話していた者にそっと送られ、ようやく俺は解放される。
何も知らない俺は、先に帰宅していたカカシさんに出迎えられ、鼻の下を伸ばしていたと言うわけだ。
その作戦は、本当に俺の帰宅とカカシさん帰還がギリギリに重なりそうな時にだけ発動されたらしいが、アホらしい。
あまりにアホらしくって、俺の胃の方がギリギリと痛みだしそうだった。

人間と言うものは、あまりに激しい怒りが湧くとかえって冷静になるものだと、俺は頭の隅で他人事のように思った。
それでも、言い知れぬ不快感と怒りのあまり引き攣りそうになる顔を俺は必死で抑え、暗部に問い質した。
「本当にカカシさんは御存じなかったのですか?カカシさんに頼まれたのではないのですか?」
「いえ、本当に自分たちが独断でさせて頂きました。本当に申し訳ないです」


「だったら、あなたはなぜ、この家に無断侵入しているんです?スーパーの袋をさげて」
「いや、それは、あの……すみません!」
「それはあなたの夕飯ですか?あなたは夕飯の買い出しを、わざわざ先輩の家の冷蔵庫にしまいに来るんですか?」
そう、彼の持っているビニールの袋から、大根の葉っぱと、秋刀魚の入ったパッケージが覗いていた。
俺の家の夕食のメニューそのものじゃないか。
それでも、彼はひたすら頭を下げ続ける。
「カカシさんに買い物を頼まれたんですね?」
「これは自分が勝手に買わせて頂きました。カカシ先輩の御負担が少しでも減ればと、出過ぎた真似を致しました。申し訳ありません」
そんな馬鹿な話があるわけない。
大方、買い物にも間に合わない時間の時は、こうして暗部の彼らがフォローしていたんだろう。
ふざけるな!

「わかりました。そう言うことにしておきましょう。ですが、これからはそのようなお気遣いは無用です。ここは俺の家でもあります。例えカカシさんが許可したとしても、俺の知らぬ所で無断で出入りされるのは心外です」
「すみません」
「みなさんにも、そうお伝えください。今回のこともカカシさんには報告は無用です。後はカカシさんに直接伺います」
俺は話はこれまでとばかりに、暗部の目の前で術を解いた。
「申し訳ありませんでした。ただ本当にカカシ先輩には非はありません。カカシ先輩を責めないでください。お願いします」
猪の面の彼は、そう言って深々と頭を下げ、ご丁寧にもスーパーの袋をキッチンのテーブルの上に置くと、かき消えた。


俺は開け放しだったベランダの窓からベランダに出て、置いて来た自分の鞄と、アイスキャンディーの入ったコンビニの袋を取り上げた。
カカシさんの喜ぶ顔が見たくて買って来たアイスは、袋の中で無残にも溶けていた。



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