オトナルカカ   シリアス








When I get you alone






41.    42.    43.    44.










第五部     


41.


「ナルト、開けなさい!ここを開けなさい!」

サクラちゃんがドアを叩いている。
影分身の俺とカカシ先生が籠っている部屋のドアを激しく叩く。

「ナルト、開けなさい!」
両手の拳で、激しくドアを叩いている。
幾ら叩いても無駄なのに。
結界が全てを弾き飛ばす。
ドア自体はびくともしないが、音と振動だけが部屋の中に僅かに伝わって来る。


「開けなさい!開けるまで叩き続けるわ。しゃーんなろーーー!!」
サクラちゃんお得意の勇ましい掛け声がし、その後、部屋を守る結界がぐわんぐわんと撓むように振動した。
サクラちゃんは拳にチャクラを集めて、あの怪力を発揮してドアを殴り始めた。
そんな力任せでは結界は破れないとわかっているのに。


「しゃーんなろーー!!しゃーんなろーーー!!!」
二回、三回……と立て続けに力任せにドアを叩く。
結界に守られたドアは壊れるわけはない。


「ナルトのバカヤロー!開けろーー!!しゃーんなろーーー!!!」
四回、五回……
止めてくれ、サクラちゃん。
このドアは、そんなことじゃ開かない。


「開けなさい、ナルト!開けるまで叩き続けるって言っているでしょう!拳が壊れたって叩き続けるわよ!」
六回、七回……
お願いだ、サクラちゃん。
このドアは、開けられない。


「しゃんなろーーー!!死ぬまで叩き続けるわよ!!」
八回、九回、十回………
サクラちゃん、サクラちゃん……
ごめんってばよ、サクラちゃん……

俺からカカシ先生を奪わないでくれ。
俺はカカシ先生がいなくなったら生きていけないんだ……




止めてくれ……

もう止めてくれ……

サクラちゃん、止めてくれ……

サクラちゃん、もういいんだ、俺のことは放っておいてくれ……



「ナルト……開けて上げて」
耳を塞ぐ俺の肩にカカシ先生の手がそっと置かれた。


いやだ、いやだ、いやだってばよ!


このドアを開けたら、カカシ先生はいなくなる。
俺の前から消えるんだ。
俺は耳をふさぎ、激しく頭を振った。


「どこにいもいかないから。そう約束しただろう?だから開けてあげなさい。あんなに叩き続けたらサクラさんの手は……」


「しゃーんなろーー!ナルトのバカヤローーー!!」
サクラちゃんが叩き続ける。
何度も、何度も、叩き続ける。
俺とカカシ先生が籠ったドアを……


サクラちゃんが叩き続ける……









42.


「ナルト、私は消えたりなんかしないから」
カカシ先生は静かに繰り返す。

「だから、開けてあげて」
カカシ先生の顔が滲んで見える。
いつの間にか俺の両目からは涙がボロボロと零れ落ちていた。
カカシ先生の白くて細い指先が、そっと俺の涙を拭ってくれた。
「ナルト」
優しく、そして諭すように名前を呼ばれると、昔のカカシ先生とちっとも変らなく見える。

その間も、サクラちゃんはドアを叩き続けていた。
サクラちゃんの荒い息遣いが聞こえて来る。
疲労困憊して行き、チャクラがみるみる減少して行くのがわかる。
全身全霊で拳にチャクラを込めて、ドアを叩き続けているんだ。



サクラちゃん……

サクラちゃん……


カカシ先生!

止めてくれ、サクラちゃん……

カカシ先生……

カカシ先生!


サクラちゃん、俺のために、そんなことをしないでくれ!


カカシ先生

カカシ先生

サクラちゃん!

こんな愚かな俺のために、そんな力を使わないでくれ!



「カカシ先生!」
俺はカカシ先生に縋りついた。
カカシ先生、助けてくれ!
サクラちゃんを止めてくれ。
俺を助けてくれ!
サクラちゃんを止めてくれ!

「ナルト、開けてあげて。約束するから、逃げないと……」
カカシ先生は俺の身体を強く抱きしめてから、そっと離した。
俺は顔を袖でごしごしと擦って、床に膝をついた。

結界を解除する印を組み、片手を床に当てる。
「解!」
掌から結界を解除する術が四方八方に広がって行き、結界は解けた。
そして、次の瞬間、外側からドアは木っ端みじんになって弾け飛んだ。

廊下が丸見えになった。
そこには、右腕を突き出した恰好のままのサクラちゃんがいた。
サクラちゃんは、ゼエゼエと肩で息をしていた。
それだけ本気でドアを殴っていたんだ。


「サクラちゃん……」
サクラちゃんは、黙ったまま部屋の中に入って来た。
俺の目の前で立ち止まり、キッとした瞳で俺を見上げて来た。

「あんたも殴らせなさい!」
俺はサクラちゃんの目を見返すことが出来ずに目を伏せた。
サクラちゃんの左手が俺の衿元を掴む。
自然と前のめりになり、サクラちゃんの方へ上半身が引き寄せられた。

「いい、手加減はしないわよ。歯を食いしばりなさい」
俺は、黙って殴られる覚悟をし、歯を食いしばり固く目を閉じた。
拳で来るか、平手で来るか……

だが頬を叩かれると思っていた衝撃は、鳩尾に来た。
岩さえも砕くあの渾身の拳が、ボディーに叩き込まれた。
「うぐっ」
奇妙な呻き声をあげ、俺の影分身は衝撃に耐え切れずに消えた。
消える間際、ドアの消し飛んだ入り口から、ヤマト隊長が部屋の中に飛び込んで来るのがちらりと見えた。

カカシ先生を連れ去る気だ!









43.


執務机に座り書類に判を押していた本体の俺に、全てが一瞬で伝わった。
そして俺は飛雷神の術で、部屋に戻ろうとしたが、身体が動かなかった。
これは、影縛りだ。
俺は別の机で仕事をしていたはずのシカマルを視線だけ動かして見た。


「シカマルもグルなのか……」
「グルって、お前、人聞きが悪いな。人のこと悪人みたいに言うなよな」
シカマルは、さも嫌そうな顔をして見せるが、いつものように飄々とした口調で返事をする。

「だけど、サクラは成功したみたいだな」
「術を解いてくれ」
シカマルはかったるそうに立ち上がると、執務机を回って椅子に座る俺のすぐ側までやって来た。
首さえ動かせない俺の顔を上から覗き込む。

「お前、本当にいい加減にしろ。カカシ先生を閉じ込めてなんになる。人の気持ちは部屋には閉じ込められないぞ」
そんなことはわかってる。
馬鹿な俺だって、そんなことはわかっている。

「仲間を監禁しているような奴が火影でいいのか?カカシ先生も記憶が戻ったら悲しむぞ」
「火影の座は……降りてもいいと思っている」
「おまっ」
シカマルが絶句する。

「俺みてーな馬鹿がいつまでも火影をやっていたんじゃ、里のみんなにも申し訳ないもんな」
俺はもう覚悟を決めていた。
何もかも打ち捨てる覚悟を……
もうカカシ先生しかいらない。
カカシ先生のいない世界で生きていける自信がない。


「お前の気持ちはわからねーでもない。だけどカカシ先生を探しに行く前にも行ったよな。現実を受け入れろ、と」
俺の現実はカカシ先生だけだ。
カカシ先生のいる世界だけが俺の世界だ。
「どんなに耐え難い現実でも受け入れるしかねーんだ。それにカカシ先生は生きている。この世から消えたわけじゃない。希望はまだあるだろう?」
希望なんて、どこにもなかった。
カカシ先生の去って行った世界には何もなかった。
首を横に振ることも出来ない俺は、ただシカマルの目を睨みつけた。


「カカシ先生の所に行かせてくれ」
「駄目だ。目を覚ませ」
シカマルは俺に触れそうな所まで来ている。
影真似の術は相手との距離が近ければ近いほど威力を発揮する。
このままでは埒が明かない。

俺はかんねんした振りを装って黙り込みスッと目を閉じた。
自然エネルギーを取り込む。
動けないなら好都合だ。
そして仙人モードになる。
仙人モードの俺には影真似は効かない。

少し遅れて術の効力が薄れて来たのに気が付いたシカマルが慌てて手を伸ばして来た。
「ナルト!」
シカマルに肩を掴まれた瞬間、俺は飛雷神の術で飛んだ。









44.


間に合ってくれ!


一瞬で戻った部屋の中には、カカシ先生とサクラちゃんとヤマト隊長の三人の姿があった。
間に合ってくれと願いつつも、俺はその意外さに驚くばかりだった。
「なんでとっとと連れ去らなかった!」
俺と一緒に飛んで来たシカマルが、状況を見て取るなりそう怒鳴った。

そうだ。
なんで、カカシ先生はいる?
俺がシカマルに拘束されていたあれだけの時間があれば、ヤマト隊長とサクラちゃんの二人も揃っていたら簡単にどこへだって連れ出せただろう。


「カカシ先生が……」
サクラちゃんがやり切れないと言った困惑をにじませた顔で話し出した。
「カカシ先生が、ここにいるって言うのよ。ナルトと約束したからここにいるって。別に閉じ込められていたわけじゃないって……」
それを聞いてシカマルは、小さな舌打ちをした。

「カカシ先生、あんた、こいつにほだされたのかもしれないが、記憶が戻ったら後悔しますよ。後でこいつにはしっかり言い含めますから、とりあえずここから出ましょう。いいな、ナルト」
シカマルは、俺に念を押して来た。

俺は、カカシ先生とサクラちゃんとヤマト隊長の三人の前に突っ立ったまま、動くことが出来なかった。
影真似の術に掛かっているわけでもないのに、動けなかった。
カカシ先生の側まで行って、カカシ先生を捕まえなければならないのに……
俺は口をきくことさえ出来なかった。
俺の身体は固まったように動かなかった。


「ここにいるよ。ここにいるってナルトと約束したからね」
「カカシ先輩!」
「カカシ先生!」
ヤマト隊長とサクラちゃんの悲鳴のような声が重なった。
二人の間に立っていたカカシ先生が、俺に向かって歩いて来る。

なんで?
なんでだ?
あんなことをされて、どうして逃げない?


「私は別に監禁されていたわけじゃないよ。いつだって自由に出入り出来るよ、ね、ナルト君?」
カカシ先生は笑みをたたえたまま俺の目の前まで歩いて来た。

「私だけじゃない。サクラさんもテンゾウもシカマル君も、出入り出来るよね。もう結界はいらないだろう?」
「カカシ先生、それでいいんですか?本当に……いいんですか?」
「大丈夫だよ。ナルト君、そうだよね」
俺の身体も口も動かない。
俺は何も答えることが出来なかった
俺は呆然と、目の前のカカシ先生を見ていた。


「ナルト、約束してよ!もう馬鹿な真似はしないで。二度と結界なんか張らないで。いいえ、張ったって、何度だってあたしがぶち破ってやるわ」
サクラちゃん、ごめんってばよ。
俺は心の中で謝った。


「カカシ先輩。ボクはあたなたのためにも少しナルトから離れた方がいいと思いますけどね。いつでもボクの家は歓迎しますよ」
「ん、テンゾウ、ありがとうね」
カカシ先生はヤマト隊長に笑い掛けた。

「ナルト、君も少しは頭を冷やした方がいいよ。二度はないよ。わかるね」
ヤマト隊長は怖い顔を俺に向けた。
ごめんってばよ、ヤマト隊長。



ごめん……

ごめん……

ごめんってばよ……


カカシ先生、ごめんってばよ……

みんな、ごめんってばよ……



みんな許してくれ……


カカシ先生許してくれ……


俺は、もう……





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